登山4日目、日付の変わる深夜に、いよいよ山頂アタックです。小屋を一歩出ると、ヘッドライトを頼らなければ前後1メートルも確認出来ない暗闇の中。厚く雲がかかっているのか、星も月も見えない漆黒の世界でした。現地のガイドさんの指示にも、皆さん無言で頷くのみ。高まる緊張感が心地よくもあります。ガイド4人が前後をしっかりと固めてくれ、一列になって、心の中で「ポレポレ(ゆっくり)」を呪文のように唱えながら、山頂を目指します。歩き始めて10分くらいでしょうか、パラパラと雪がチラつき始め、「…困ったな」なんて思うのも束の間、アッという間に勢いを増してみぞれ雪が打ちつけてきます。全身の防寒具を再度チェックして、吹雪の中、一固まりになって、じりじりと歩を進めて行きます。30分ほど歩いては立ち止まって休憩を繰り返し、少しずつ前進していきます。途中にあるハンスマイヤー洞窟で、雪を避けてしばしの休憩と装備の再点検。ここからがさらに急登です。まだまだ先は長い。
体に雪を積もらせながら、何時間歩いた事でしょうか、一固まりだったチームもペースに応じて幾つかに別れ、それぞれのグループを現地のガイドさん達が手早くフォローしてくれます。昨日までは軽口を叩きながら飄々と登っていた彼らも、さすがに真剣な顔つきをしていますが、目が合うとニコッと笑って「ポレポレ(ゆっくり)」と肩を叩いてくれます。永遠に続くのかと思う暗闇の世界の中、一歩一歩に集中して歩いていると、ついつい時間の感覚を見失いつつあります。ふと息をついた時に、強烈な日の光を背中に感じました。背後のマウェンジ峰の向こうから、ついに太陽が姿を現します。
気がつけば、雪も止み、山頂の姿も視界の端に捉える事が出来ます。あと一息、現金なもので終わりが見え始めると途端に元気が湧いてきます。僅かに残った体力を振り絞って雪渓を踏みしめる。
歩き始めて約7時間、ずいぶんとスローペースになってしまいましたが、1人も欠ける事なく、ギルマンズ・ポイントを落としました。標高5,681m、最後の力を振り絞ってガッツポーズ!!燦々と輝くアフリカ最高峰の太陽は、キリマンジャロからのご褒美です。
さて、ここで一旦ツアー全体としての目標は達成です。ここからは、現地のガイド判断を仰ぎつつ、1人ずつの意志を確認して、下山をするチームと、山頂ウフル・ピークを目指すチームの二手に分かれます。ギルマンズ・ポイント~ウフル・ピークまで、高度にすれば200m足らずですが、標高6,000m近い世界での200mは、なかなかに辛い道のりでした。僅かに残る体力・気力を絞り出して進みます。
澄み渡る紺碧の空の下、突如として襲いかかる睡魔と闘いながら、一歩一歩足を踏み出します。一体どれだけの時間歩いたのか、或いはまだ5分も歩いていないのか、ふと気を抜くと時間の感覚さえも朧になってしまいそうになりますが、疲労した肉体と精神の両方に喝を入れながら、前へ。前へ。一体、自分はこんなところで何をしてるんだろう?形にならない自問自答が、頭の中をぐるぐると漂います。永遠に続くかと思われた最後の坂を登り終え、さすがにきつい!、と腰を下ろして休もうとした時、目の前にひっそりと看板が一つ立っていました。
ついに山頂です!嬉しさは格別。感無量。ウフル・ピークのウフルとは、スワヒリ語で「自由」「独立」を意味します。今自分が立っている場所は、アフリカ大陸で最も高い場所なのです。なかなか、ここまでの達成感は人生にそう何度もありません。暫しの間、感動の余韻に浸りたいところですが、この日のうちにホロンボ・ハットまで下ってしまなくてはいけません。まだまだ気を抜くわけにはいかないのです。もはや力の残っていない体に檄を飛ばし、踵をかえしてギルマンズ・ポイントへと戻ります。帰路、右手に聳えるのは圧巻の大氷河。
さて、この山頂からホロンボ・ハット迄の帰路こそが、この山行で一番辛い箇所です。登頂を達成し、張っていた気力が緩んでしまいがちですが、標高差2,000mを降り、約5~6時間を歩き続けなくてはいけません。途中、何度も登っていく登山客達と「おめでとう!」「GOOD LUCK!」と、互いに言葉を交わします。日も暮れる頃、ようやくホロンボ・ハットに辿り着きました。まだ翌日の下山も残っていますが、今夜ばかりは緊張からも解放されてゆっくりと眠りにつきます。
翌日は、いよいよ足取りも軽快。マンダラ・ハットも通り抜け、一路ゲートへと進みます。天候も快晴が広がり、皆さん達成感に満ちた笑顔が広がります。ついつい後ろを振り返っては、遥か後方に聳える山頂のキボ峰を眺めて、頬が緩んでしまいます。2日間の直射日光に焼かれたせいで、既に鼻の頭が剥がれかけていますが、ヒリヒリと顔が痛む事すら嬉しくもあります。
さて、マラングゲートで無事に全員の手続きを終え、その後はゲートの地区にあるホテルの食堂で昼食です。ただ、勿論お腹も減っていますが、食事よりも何よりも、ビール片手に『乾杯!』
この瞬間の為に、4泊5日の登山を経て来たようなものです。食後は、ガイドやポーター、コック達、全員がそろった現地スタッフと1人ずつ別れの挨拶です。全員でキリマンジャロの歌を合唱。嬉しいサプライズです。
初日にも宿泊したアルーシャの街を経て、再び入口となったケニアの首都ナイロビを目指します。気がつけば、長いようであっという間だったキリマンジャロ登山。ですが、確かに標高6,000m近い山を踏破したのです。新年の初めから大きな目的を達成した皆さん、今年の目標はなかなか設定が難しいかもしれません。老若男女、年代も性別も関係なく素晴らしいチームワークで事を成し遂げた、日本からのツアーメンバー。また、経験豊富な山屋から初心者の方まで、色とりどりのメンバーを完璧にサポートしてくれた現地のガイドさんやポーターさん達。素晴らしい仕事ぶりでした。これから、キリマンジャロ登山に挑戦しようというアナタも、現地ではキリマンジャロ屈指の、頼れる山男達が出迎えてくれます。
弊社では、キリマンジャロ登山のツアーに関して、今回ご紹介した
『キリマンジャロ登山・マラングルート 10日間』
『マチャメルートで登る!キリマンジャロ登山とサファリ14日間』
の2つのツアーをご用意しております。
2011年のシーズンも、いよいよこれからが本番です。
是非、アフリカ最高峰、今年はチャレンジしてみてください!
生野