アフリカで使われている道具の大半は機械を使わずに手で作られたものだ。織機も枠組みから綜絖、筬、杼、すべてが手作りである。西アフリカの織機の筬は日本、東南アジア、インドなどのものと違って随分小さく、幅は15cm-20cm位だ。筬の幅が狭いので織られる生地幅も10cm位になる。衣服などにはその細い帯をつなげた大きな布を用いている。機織りは昔から男の仕事で、西アフリカの村を訪ねると必ずと言ってよいほど大きな木の下で黙々と機織りに勤しむ男たちを見かける。
筬や杼はほとんど木製であるが、筬は時々竹に似た柔らかい素材でも作られる。筬の形が下に膨らみちょっとした重さを持っているのは、筬が垂直にぶら下がり常に重心を下げて織り易くするための知恵である。機能性だけを考えるならただの円柱の筒でもいいはずなのに、そこがアフリカの人たちの素晴らしいところである。日常の道具にも繊細なデザインセンスを示してくれる。
長年使われてきた道具は摩擦や汗などが加わって独特な柔らかい形と味を醸し出し、時間に培われた愛着がこちらにも伝わってくる。筬のナイーブな形は美しく、展示台を作って飾るなら一つの立派なインテリアデコルになるだろう。今でも都市の骨董屋に行くと西アフリカ各地で使われているこうした機織り道具を簡単に買うことができ、安価なものではあるが、その形とパティナと呼ばれる味は絶品である。古道具に興味ある人なら長く使い込まれて生まれたこのトロトロとした味には思わず笑みがこぼれるはずだ。
ほんの30年くらい前まではセヌフォのベッドにもこのトロトロとした味がついたものを見つける事ができたが、今ではそんな絶品に出会うことは滅多にない。古色のついた木製品の魅力は万国共通で、日本のものでも東南アジア、インドのものでも、赤琥珀のようになったこの色合いに好事家達は虜になってしまう。日本や東南アジアではなかなか古い木味を持つオブジェを見つけるのが難しい昨今であるが、アフリカを旅すれば、日常的に使われている道具のなかにも芸術的なオブジェを見つける事はまだ簡単である。これも今日、アフリカを旅する魅力の一つになりうるのではないだろうか。
写真提供/小川 弘さん
小川 弘さん 1977年、(株)東京かんかん設立。アフリカの美術品を中心に、アフリカ・インド・東南アジアの雑貨、テキスタイルなどを取り扱っている。著書にアフリカ美術の専門書「アフリカのかたち」。公式ウェブサイト http://www.kankan.co.jp/