黒人アフリカ女性の髪型に対する執着は何千年も前から並々ならぬものであった。紀元前のノックの彫像に見られる珍しい髪型もその好い例である。
カメルーンの仮面にも独特な髪型を持つものが数多く存在する。しかしその髪をまとめる櫛に関しては、ガーナのアシャンティ族の間で作られるものだけが特異な発展を遂げていった。当時を調べた文献によると、17世紀前半から後半頃まではアシャンティの人達の使う櫛は非常にシンプルな指の長さ程の2本の歯を持つ櫛で、それで髪を留めていたという。当時の人々はシラミに悩まされていたため、櫛はシラミを掻き出すのにも使われていた。またその頃の女性は人に会った時、敬意を表すため、頭の後ろに付けている櫛を外して、それを見せて右足を前に出して挨拶をするという習慣があったそうだ。18世紀になると櫛の歯は3-4本に増え、編み込んだ髪に一つ、または二つの櫛を留めていた。20世紀に入ると櫛は大きくなり、実際髪を結うためにはヨーロッパの櫛が使われ、伝統的なデザインを施した櫛は、髪結いが終わった後の髪飾りとして使われるようになった。近年は更に大きくなりこれらは壁の飾りとして使われている。

画像では良く見えないが家のような弧の上には亀と子安貝、銃のデザインが施されている。家族が富に恵まれ、長寿で権力を持てる事を願ったものか?

鳥、“賢者の結び目”を表わしている。後ろを振り向く鳥(サンコファ)はアシャンティ族のことわざで「過去の過ちを正せ」という意味があり、将来の事を決める前に過去を振り返れという教訓。

アシャンティの子宝を願う人形、“アクワバ”をイメージさせる櫛。アクワバと同様、子宝を願う気持ちを込めて夫から妻に送られる。

櫛は女性の持ち物で、彫り師に自分が使用するために注文することもあったが、多くの場合、何かの記念日、例えば結婚式や誕生日、成人式、出産などの時、男性から妻や恋人へ、または父から娘へ、息子から母へと特別な出来事の記念として、また伝統的な祭りやキリスト教の祭りの記念として櫛が送られた。それらの櫛には送り主の名前や記念日の日付や場所などが書き込まれることもあった。このようにアシャンティの人達の間では、櫛は単に髪に飾るためのものだけにとどまらず、大切な記念日や愛情の気持ちを伝える大切な記念品、贈答品であり、デザインも多様化してアシャンティのことわざなども盛り込まれるようになり、アフリカ美術の中でも特異な発展をしていった。
ファンティ族の女性の髪型(19世紀)

写真提供/小川 弘さん

小川 弘さん
1977年、(株)東京かんかん設立。アフリカの美術品を中心に、アフリカ・インド・東南アジアの雑貨、テキスタイルなどを取り扱っている。著書にアフリカ美術の専門書「アフリカのかたち」。公式ウェブサイト http://www.kankan.co.jp/
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