カイロ―世界の都市の物語 牟田口義郎 著/文藝春秋

アフリカ専門旅行会社の社員として、お客様から「アフリカでどの国が一番好きですか?」とよくご質問いただきます。アフリカ54カ国中2カ国を除く52カ国に訪問している身として、こう答えるのはあまりにもひねりがなさすぎると思ってはいますし、他にも好きな国はあるのですが、私の答えは「エジプト」です。ずいぶん普通な答えだな、と思われるかもしれませんが、やはり若い頃に一時期住んでいたことのある国や街というのは、年を経れば経るほどより思い入れが強くなっていくものなのかもしれません。
今回おススメするこの本は、文明発祥の地としての栄光を担う古代エジプトの話をまくらに、7世紀のアラブによる征服を踏まえた上で、10世紀のカイロ建設からファーティマ朝、アイユーブ朝、マムルーク朝の首都としてナイル川のほとりに繁栄し、現在もアラブ世界最大の都となっている1000年都市カイロの物語です。各時代の国際関係と絡めながら、人物を中心に描かれていますので、ただの歴史本よりはるかに面白く読めますし、歴史を一つの都市に限定して辿っていくというのは、非常に面白い切り口だとも感じました。
好みの違いはあるかと思いますが、エジプトには旅の目的となる4本の柱があると個人的には思っています。ナイル川沿いの壮麗な遺跡群、世界屈指のダイビングスポットとして知られている紅海、雄大であらゆる形態を含む砂漠が広がる西方砂漠、そしてアラブ世界の政治・文化の中心、1000年の都としてのアル・カーヒラ―(カイロ)です。カイロ一押しの私としては、ナイル川沿いの遺跡全てを見ることと、カイロの旧市街を1日かけて散策することは、同じくらいの価値があると思っています。
『カイロを見ずしてエジプトを語ることなかれ』、極端な意見だとは思いますが、治安も落ち着き、観光客も回復しつつあるエジプトへの旅を予定されている方は、ぜひカイロ旧市街の散策を旅程の一部に加えていただくことをお勧めします。その際に、予備知識としてこの本を読むのと読まないのでは、天と地ほど差が出てくると思います。
by 羽鳥

道祖神