「住」 家は、家族が共に暮らし、喜びや哀しみを分かちあうところ

エチオピア人はもてなし好き

今でも独自の暦を使うエチオピアの新年は9月である。9月にお正月?!と驚く人も多いが、季節が異なるだけで、祝いの気持ちと形は日本とさほど変わらない。家族や親せき・友人が集い、エチオピア正教の信者なら教会にお参りに行き、ごちそうを食べ歌ったり踊ったりする。この季節になると野山にいっせいに咲く黄色いマスカルの花を贈り合う習慣も風雅で、どこか日本人の感性と似ている。

働き手が必要な農家は子どもの数が多い

エチオピアの人は、もてなし好きだ。顔見知りになると、コーヒーや食事など自宅に招待してくれる。新年は特にお招きが多い。エチオピアの人の暮らしに触れる絶好の機会なので、遠慮なくおじゃましている。アジスアベバでは、夫の同僚たち(農業省の公務員)が何度も招いてくれた。彼らのライフスタイルは一軒家やアパートに住み、スーツやワンピースを着て、パンとコーヒーの朝食をとる私たちの暮らしとほとんど変わらない。面白いと思うは、この同僚たちが新築するとき、狭い家でもできるだけ部屋数を多くつくろうとすることだ。賃貸オーナーを目指してのことらしい。人口がもうすぐ1億人に達するエチオピアは慢性的な住宅不足、だから需要はある。ビジネスマインドがあるなあと感心する。
住宅建設ラッシュがつづく都市

失われつつある伝統的な家

郊外や地方都市に向かうと、壁は日干しレンガやブロック、屋根はトタンかスレートの四角い家(切妻屋根方形型)が目立つようになる。4畳半か広くても8畳くらいのリビングと小さな台所・寝室といった間取りが多い。裕福な家ではベッド、ソファーセット、テレビ、タンスなどが置かれている。ヤギや鶏などの家畜は外で飼い、小さな庭には薬草や野菜などが植えられている。私たちが住んでいたオロミヤ州の地方都市には、この四角い家が多かった。アフリカ大地溝帯の底に広がる街は、日中の気温が40度をこえる。四角い家は、強い西日の当たる側を壁にして、窓も小さくしていた。どの家も台所は外にあった。香辛料を大量に使うエチオピア料理は匂いや熱が部屋にこもるため、台所を外に置くのが伝統的な様式ということだ。また、ドメスティックバイオレンスが社会問題となっているこの地方では、台所は夫から暴力を受けた妻が逃げ込む場所と説明する人もいた。家はそこに住む人たちの喜び、悲しみ、怒り、願いなど多くのことを語りかけてくれる。

ピンクの壁、緑の窓が可愛い四角い家

同じ州の農村地域では、マッシュルームハウスと呼ばれる丸い屋根の家が多くみられる。四角い家と並んで建てられることもある。一家族は、複数のハウスを建て世代や男女などに別れて暮らしている。最も古くからあるこの伝統的な家は、草ぶきの屋根、小さな窓、土間という酷暑に強いつくりになっている。だが、問題もある。土壁はもろく雨季にはぼろぼろと崩れてしまう。屋根のメンテナンスも手間のかかる仕事だ。マッシュルームハウスは、徐々にその姿を消しつつある。
台所・寝室・居間がある丸い家のなか

エチオピアの人たちの衣食住は、海外からの人や物の流入によって急速に変化している。都市部やその周辺では、この傾向が著しい。最近では富裕層や外国人向けの不動産投資も盛んに行われている。家はその形だけではなく、ライフスタイルにも変化をもたらす。都会の若者たちは、結婚すると頑強な家を建て、家族とは離れて暮らすようになった。大家族が、「共に暮らし、喜び、悲しみ、苦しみ、楽しみを分かち合ってきた家」は今、都会を中心に急速に失われようとしているようだ。
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文・写真提供 白鳥くるみさん

白鳥くるみさん
(アフリカ理解プロジェクト代表)
80年代に青年海外協力隊(ケニア)に参加。以来、教育開発分野で国際協力に力を注ぎ、多くの課題を抱えるアフリカのために何かできたらと「アフリカ理解プロジェクト」を立ち上げる。エチオピアを中心に活動の後、2015年、日本に拠点を移し本の企画出版などの活動をつづけている。
道祖神

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