「アフリカの布は、伝統的でモダン、明るくおおらかで力強い。時を超えて、つねに現代的である」。ロンドン大学芸術考古学教授のジョン・ピクトンは、「西アフリカの明白な事実のひとつは、布であふれかえっていること!(The Art of African Textiles /2000)」とも語っている。
ピクトンの言葉どおり、西アフリカに限らず、アフリカは色とりどりのテキスタイルであふれている。なかでも、パーニュ、カンガ、エチオピア手織り綿などの民族布は注目のアイテムだ。エチオピア綿の存在はほかのテキスタイルに比べ知名度は低いが、アメリカ人デザイナーのガードル・トンは、「エチオピアには世界最高峰のひとつに入る素晴らしい綿がある(Addis Tribune/2003)」と、エチオピアでのテキスタイルビジネスを評価している。
涼しい気候にも暑い気候にも合う実用性を備えたエチオピアの手織り綿がもっとも使われるのは、民族衣装「アベシャ・リブス」の仕立てだ。男性の衣装は一般に細身のパンツに大きめのシャツ、上からガビ(厚手の綿ショール)を羽織る(※1)。女性はワンピースにナタラ(薄手の綿ショール)を纏う。ガビ、ナタラ、ドレスには絹糸で伝統的な柄「ティベブ」が刺繍されている。絹糸は、昔はエチオピアの織り手たちが輸入された布をほぐし手に入れていたそうだ。
ガビやナタラは無造作に羽織っているようにみえるが、実は冠婚葬祭で着方を変えている。悲しみの席には華麗なティベブを隠し、祝いの席では華やかなティベブが最大限にみえる着こなしをする気遣いがある。着用したときのひだや折り目の形にも、着る人の地位を表す情報がこめられているという(※2)。女性のドレスは既製品もあるが、自分好みのデザインにも仕立てられる。最速で2日あれば出来上がるから、旅行の合間でもエチオピアンドレスの仕立てはお奨めだ。もっと手軽なものが…という人には、アディスにあるテキスタイル工房「SABAHAR」と「MUYA」のスカーフやショールがおすすめ。どちらもフェアトレード商品として欧米にも輸出されている。
エチオピア政府は、ガーナのケンテ布のような伝統的なデザインとテキスタイルを開発し、輸出するという新たな戦略のもとに専門家を招き、様々なプロジェクトを行っている。伝統布の見直し、見本市やファッションショー開催など、今やエチオピアにとって(アフリカにとっても)ファッションは、なくてはならない産業となっている。アイデンティティ(民族のルーツを表し民族をつなぐもの)、誇り(エチオピア人であることの誇り)、可能性(仕事をつくり、人をつくり、国をつくる)という役割を担って、日々進化をつづけるファッション業界。アフリカのテキスタイルからは目が離せない。
※1民族や宗教によって民族衣装は異なります。
※2動画で着方を公開しています。
http://www.youtube.com/user/africarikai
文・写真提供 白鳥くるみさん
白鳥くるみさん (アフリカ理解プロジェクト代表) 80年代に青年海外協力隊(ケニア)に参加。以来、教育開発分野で国際協力に力を注ぎ、多くの課題を抱えるアフリカのために何かできたらと「アフリカ理解プロジェクト」を立ち上げる。エチオピアを中心に活動の後、2015年、日本に拠点を移し本の企画出版などの活動をつづけている。