本誌152号で、テフ粉から作るインジェラの話を書いた。そのテフが、いまやワンダーグレイン(驚異の穀物)として世界で注目され、日本でも販売が始まっている。
テフは、古代アビシニアから栽培されているエチオピア原産の穀物で、おそらく世界でもっとも小さな穀物の粒(テフ150粒が小麦1粒にあたる)という特徴をもつ。粒は小さいが、カルシウム・鉄分などのミネラルやタンパク質を豊富に含み、でんぷんでありながらエネルギーになりにくいレジスタントスターチ、グルテンフリーという驚くべき穀物だということが最新の研究で明らかになった。
インジェラに調理すれば発酵食というおまけも付く。インジェラの姿・形で「古雑巾みたい」などという人もいるが、恐れ入ってほしい効能である。エチオピアでもテフ粉は再評価され、パンやクッキーという形でも食べられるようになってきた。
コーヒーの効能や飲み方も、最近の研究は進んでいる。『シリコンバレー式自分を変える最強の食事』という本では、「コーヒーと脂肪」が最も痩せる組み合わせであると書かれている。著者によれば、パフォーマンスを最大化する朝食のレシピは、コーヒーにココナッツオイル大さじ1~2杯と、良質の無塩バター大さじ1~2杯を加えること、だそうだ。
ん?!これってエチオピア式のコーヒーの飲み方じゃないですか。エチオピアでは、コーヒーに大量の砂糖を入れて飲むが、この習慣はイタリア占領時代に持ち込まれたと言われる。今でも田舎や産地、年配者には、岩塩や自家製バターでコーヒーを飲む人が多い。
エチオピアにはコーヒーセレモニーという、日本の茶道に似たコーヒーの飲み方もある。セレモニーは五感を使ってコーヒーを楽しむ。「香り」は特に重要で〝床に敷いた若草の香り″〝煎りあがったコーヒーの香り″〝乳香やハーブ・スパイスの香り″を客が楽しめるよう女主人は気を配る。これらの香りはどれもただいい匂いというだけでなく、一連の流れが薬効やリラックス効果を生み出す「アロマテラピー」として構成されていることに先人の知恵を感じる。
乳香は、新約聖書にも出てくるほど古い香料で『マタイによる福音書』には、東方から救世主を探しにきた三博士がイエスに会い「ひれ伏して拝み、また、宝の箱をあけて、黄金、乳香、没薬の贈り物をささげた」と記されている。乳香の複雑な香りを表すのは難しいが、高級な乳香ほど甘みとわずかな苦みと辛みを感じる。
セレモニーの最中、炭火で乳香が焚かれると、客は片手でその煙をすくい取り思いっきり吸いこむことがマナーとされている。エチオピアの人たちの大半は高地で暮らしている。乾燥の激しい高地で、人びとはたえず風邪やインフルエンザなど感染症のリスクにさらされている。乳香や没薬には優れた抗菌作用があり薬用に使われていること考えると、一日三度おこなわれるコーヒーセレモニーの合理性もみえてくる。
もっと詳しく知りたい方は
■アフリカ理解プロジェクト制作コーヒーセレモニー動画 https://www.youtube.com/user/africarikai
■インジェラの作り方:『アフリカ料理の本~62の有名なアフリカンレシピ&物語』
■乳香・没薬:『エチオピアコーヒー伝説/原木のある森 コーヒーのはじまりの物語』
文・写真提供 白鳥くるみさん
白鳥くるみさん (アフリカ理解プロジェクト代表) 80年代に青年海外協力隊(ケニア)に参加。以来、教育開発分野で国際協力に力を注ぎ、多くの課題を抱えるアフリカのために何かできたらと「アフリカ理解プロジェクト」を立ち上げる。エチオピアを中心に活動の後、2015年、日本に拠点を移し本の企画出版などの活動をつづけている。