門田修 著
現在、社内でツアー企画を担当していますが、現地での移動手段を考えるとき、なるべくであれば空路より陸路を選びます。インフラの整備が進んでいるとはいえ、道の悪いところが多いアフリカでの陸路移動は確かに疲れますが、味気ない空路の移動より、沿道の人々の暮らしや生産されている農作物、窓を開けると入ってくる風の匂い、山や草原、森、川、湖などの景色が眺められる陸路の移動の方が、空路とは比較にならないほど楽しめると思っています。が、更にその上を行くのが船を使った水上の移動。川でも海でも構いませんが、船旅には、列車の旅と並んで無性に旅情をかきたてるものがあり、大きな川や海に面した国・地域を舞台にツアー企画を考えるとき、まずは船旅が可能かどうかを真っ先に考えてしまいます。
そんな私のバイブル、旅を作るときのイマジネーションを沸き立たせてくれる本が、この門田修さんの「海のラクダ」です。
フォト・ジャーナリストとして、世界各地の海洋民族、川、湖の民などを取材し、水辺に暮らす人々と海との関わり、船を主なテーマとした著作が多い門田さんが、「砂漠の船=ラクダ」に対して「海のラクダ」と呼ばれた船、インド、アラビア、東アフリカを結んだインド洋の季節風貿易を1500年以上にわたって担ってきたアラブの帆船『ダウ』に乗って、ケニアのモンバサからアラブ首長国連邦のドバイまで42日間旅し、その模様やダウ船を取り巻く状況、海の上から見た沿岸各国、航海や操船の技術、乗組員たちの人間模様などを描いた、貨物船旅のルポルタージュのようなものです。
ソマリアもイエメンも政治的にまだうまくいっている時代、ドバイ入国にはビザが必要で、逆にイラクやイランにビザなしで気軽に行けたよき時代(1978年)の話ですが、今は少なくなったアラビア半島諸国と東アフリカを結んで貿易に従事するダウとその乗組員の話は、興味が尽きません。
この本に記された旅には、おまけのような写真集があり、青森県の「みちのく北方漁船博物館」を運営する財団から出版されています。本とあわせて写真を眺めると、”シンドバッドの末裔”ともいえる海の男たちの号令の大声と潮の香りが漂ってくるようです。残念ながら、「みちのく北方漁船博物館」は現在閉館中ですが、展示のために門田さんが仲介となってインド西海岸から海路自走で運ばれた本物のダウ船が、この博物館では海に浮かんでいるのを見ることができました。ついでに北欧のバイキング船やインドネシアの帆船「ピニシ」、復元された北前船などが、それぞれ稼動可能な状態で展示されており、船好きにはたまらない素晴らしい博物館でした。
「船酔い」という、船に乗り慣れていない方にとって小さくない問題もあり、いまだに使われているダウ船やクラシックな帆船を使った旅を作るのはなかなか難しいのですが、門田さんの旅したケニアからドバイまでとはいかずとも、4泊5日程度の近距離沿岸航海のツアー化に、またいつかチャレンジしたいと思っています。
By 羽鳥