長いことアフリカに通っているうちに、いつの間にか全53カ国を訪れることができた。通常の観光旅行でも40カ国ほどは訪問できるが、そこから先の10数カ国は、治安の問題やアクセスの問題もあって中々難しいので、ちょっと自慢だ。
旅行で、ご一緒したお客様から時折「アフリカで1番好きな国はどこですか?」と聞かれる。そんな時は「スーダンですね。とにかく人がいい」と答えることが多い。
30数年前に始めてスーダンを訪れたときの印象が強く残っている。外輪船でナイル川をさかのぼり、ヌビア砂漠を縦断する列車の屋根に70時間も乗って旅をした。砂漠の中に一直線に伸びる二本の線路は時折砂に埋まっており、その度に車掌(?)がスコップで砂を掻き出す。列車は2時間も3時間も止まったままだ。乗客は窓や屋根から地面に下り、食事をしたり用を足したり思い思いに時間をつぶす。誰一人文句を言わない。祈りの時間になると再び列車は止まり、驚くほど多くの人々が砂漠に下り、砂で手足を清め、メッカに向かって祈り始める。エジプトへの出稼ぎ帰りのスーダン人は皆寛容で、穴の開いたジーパンを履いたアジアの若者に、お茶やパンをご馳走してくれた。共に砂の上に座ってかたいパンを食べていると、周りの人々もオレンジやデーツを勧めてくれる。
停電続きの首都ハルツームに数日滞在し、再びボートで白ナイルを遡上し南部スーダン最大の町、ジュバに到着した。ジュバも停電で真っ暗だった。知識も情報もなく十分な食料や水の準備もないままスーダンを縦断し、多くの人々に助けられた旅だった。
2011年7月9日、アフリカ大陸に54番目の独立国家が誕生した。『南スーダン共和国』だ。20年続いた内戦の間に、200万人とも言われる人々が命を落とし、大きな犠牲の上に南部スーダンは独立を勝ち取った。国中の舗装路の合計が100キロにも満たないと言われるインフラの乏しい南部スーダンで、すでに中国、列強による石油利権の奪いあいが始まっている。
牛飼いの人々がノンビリと歩くジュバの町はどのように変わったのだろうか…いや、変わるのだろうか。とにかく平和を願わずにいられない。いつの日か訪れてみようと思う。
写真 : 南スーダンの町角