ケニアの旅行の足と言えば、
最も一般的なのは6人乗りのサファリカーだ。
移動から国立公園でのサファリまで、
1台でこなすすぐれもの。
それから個人旅行者にはかかせない長距離バス、
地方への旅では国内線の軽飛行機も充実している。
そしてもう1つ、今回はケニアの鉄道の旅をご紹介したい。
ケニアの鉄道路線を運航している会社はRIFT VALLEY RAILWAYSという。元々は19世紀末に、植民地政策の一環として、東アフリカの海の玄関モンバサとケニアの内陸部やウガンダを結ぶために建設されたウガンダ鉄道が始まりだった。かつてはケニア各地に路線が建設されていたが、現在、客車がある主要路線はわずか2路線。南東部の港町モンバサ行きと、西のヴィクトリア湖に面するキスム行きのみ。しかも、2年前からキスム行きは稼働しておらず、実質は港町モンバサ行きの1路線のみとなっている。
ナイロビから港町モンバサまでは約500km、車で8時間前後の距離だ。この区間が渋滞のない列車旅の出番で、ナイロビ⇔モンバサ間を週3便の夜行列車が運行している。運行予定表では、ナイロビ発が夜20時、翌朝10時にはモンバサ着という14時間の夜行列車。ナイロビ駅は市内中心部にあり、わりと一般の旅行者でも夜間に来ることができる。客車は、1等車は専用客室、2等車は4名の相部屋客室、3等車は座席のみとなっていて、1・2等車には食堂車での夕・朝2回の食事が付く。途中、ケニア最大の国立公園であるツァボ公園の中を突っ切っていくため、頑張って早起きして運が良ければ、列車の車窓から野生動物の姿が見られる。
さて、夜20時に出発なので、1時間前にはナイロビ駅に到着。なかなか年季の入った駅舎だが、雰囲気があり、否が応でも旅情を掻き立てられる。ホームでのんびりと客車の到着を待つのだが…時間通りには来ない。結局、列車が出発したのは2時間遅れの22時。この時点で到着予定が翌日の正午に変更となり、不安がよぎる。
今回利用した1等客車には、2段ベッドと簡単な洗面台、荷物用の棚が設置されており、狭いけれど、一晩を過ごすには十分。走り出すと、乗務員がベルを鳴らしながら各客室を回り、食堂車に呼んでくれる。夕食はいわゆる「ケニア飯」。お米とチキンが数切れ、そこに野菜やイモを煮込んだソースをぶっかける。味は美味しい、何より量が多いのでなかなか満足。冷えたビールも注文できる。さて、食事が済むと特にやる事もなく、車窓からの景色も真っ暗なので、列車の微妙な振動に揺られ睡魔が襲ってくる。
目覚めると、車窓の景色は一変しており、まさにツァボ国立公園の真っただ中だ。ケニアでは珍しいバオバブの巨木が立ち並ぶサバンナの中を列車で走るのは、この道中の最大の山場。時折、近くに集落が見えたり、子どもたちに手を振ったりしながら、のんびりと進む。そして、中継駅として最も大きなヴォイ駅に到着。ここで「30分ほど点検のために停車します」というアナウンスがあったが、2時間、3時間経っても出発しない。何時間待ったかも忘れたころにようやく出発。その後も走ってはストップを繰り返し、旅行者と旅の話などで盛り上がったりはするものの、海岸部に近付くにつれて蒸し暑くなっていく車内では、1人2人と口数が減り、最後の方はもう無事に着いてくれさえすればいい、という心持ちになっていた。結局、モンバサに到着したのは夜22時。当初の予定から12時間遅延となった。
とはいえ、普段のケニア旅行のスタイルとは一味もふた味も違う、これぞ「旅」という体験ができることも事実。日程がタイトな旅行者には決してお勧めできないが、時間だけはある、という方にはぜひ体験してほしい。また違ったケニアの魅力を再発見できる鉄道旅だったと思う。
生野