ナイロビ駐在所へ赴任も早や数カ月…。
日本でオフィス勤務をしていた時と違って、
駐在員の仕事はよく歩く。
お客さんを探して空港を歩く、お金のやり繰りで銀行へ歩く、
書類を届けに歩く、書類を受け取りに歩く、
忙しい時期はホテルからホテルへ歩く。
メールや電話が発達しても、まだまだ対面仕事が主流のナイロビ。
食べ物が美味しいので、ちっとも体重は減りませんが、
とにかく靴底がよく減る毎日です。
ナイロビに来たら必ず手に入れようと密かに企んでいたものがある。それは、Bata社のサファリブーツ。過去に添乗員として何度かケニアを訪問した際、いつもサファリドライバー達が履いているサファリブーツが格好良く見えてたまらなかった。お洒落とは言い難い無骨なルックス、スエード革のシンプルな作り、フィールドを踏みしめる幅広で頑丈な靴底。オフロードを軽々と運転するドライバー達の足元を助手席から盗み見しては、「サファリブーツ格好いいなあ」と心の中で呟いていた。
このBata社はナイロビ市内中、結構いたるところにお店がある。大型のショッピングモールには必ずあるし、大型店舗のスーパーマーケットには併設されていることも多い。以前からチラチラ気になってはいたものの、ツアー中に自分だけ靴を買いに行くわけにもいかず、ナイロビ赴任が決まった際に、密かにBataブーツ購入を決意していたのであった。気になるお値段は、日本円で約2,000円前後。実際に履いて歩いてみると、頑丈な靴底は、穴ぼこだらけのナイロビの道でも苦にならない、加工されていない革の色は土埃や汚れも気にならない、多少のぬかるみなど目も止めずに歩く。こいつはいい!もう気持ちだけはサファリ気分だ。
しかし、ナイロビの中心街は、パリッと上下スーツに身を包んだビジネスマン達の社交場。見ると、皆さん毎日きちんとアイロンのかかったスーツに、ピカピカに磨かれた革靴でオフィス街を颯爽と歩いている。ナイロビのビジネスマン達は皆身ぎれいだ。日に日に汚れていく自分のサファリブーツが、少し滑稽に見えてきた。一旦そう思いだすと、もう駄目だ。オフィスで働く格好なのに、足元だけが汚れたサファリブーツ、絶対に変だ。サファリブーツは、やっぱり土とサバンナの上を歩くのが良く似合う…ということで、泣く泣く私のBataブーツは、靴箱の中でフィールドに出るチャンスを伺っている。機会があれば、皆さんもサファリに出られる前に、ぜひ一足。
ナイロビ市内では、よく靴磨きを見かける。外国でよく見かける、少年が路上で靴を載せる台と道具を片手に商売をしているのとはちょっと違う。きちんと制服に身を包んだお兄さん・お姉さんが、お客さんを立派な椅子に座らせて靴磨きをするチェーン店だ。初めは靴磨きをさせるなんて偉そうで、どうにも性に合わないと思っていたが、ある日あまりにも靴が汚れていたので、ものは試しにお願いしてみた。テキパキと椅子に座らされ、磨き屋の兄さんは鼻歌交じりに私の靴を磨き始める。「どっから来たの?中国の人?」「日本人だよ。」「そっか、ナイロビは観光?ビジネス?」「住んでるんだ。街で毎日仕事してるよ」「そうかそうか、大統領選挙も無事終わって、お互いひと安心だな」…ペチャクチャとお喋りしながらも、彼の手は淀みなく靴を磨いている。靴紐を抜き、石鹸でこすった後にさっと一拭き、革靴には油脂と靴墨を塗り込み、細かい刺繍の部分などはブラッシング。あっという間にピカピカに磨き上げてくれて30円くらい。
「ほら、素敵な靴になった。今日は1日、ナイロビ中の女があんたの事を放っておかないぜ」。思わず、鼻も期待も膨らむセリフで爽やかに送り出してくれる。実に清々しい、まるで散髪したてのような気分だ。それからというもの、仕事で行き詰ったり、悩んだりすると、靴を磨いてもらって気持ちを少しリフレッシュしている。今では顔馴染みになった磨き屋の兄さんのところへ世間話をしに行くのも楽しみの1つだ。
生野