初めてアフリカでサファリをされるお客様が、インパラやグラントガゼルをご覧になったときに「あっ、シカだー!」と歓声を上げて喜ぶ光景をよく目にしますが、厳密にいうとケニアのサバンナにはシカはいません。
インパラ、グラント&トムソンガゼル、ウォーターバック、エランド等々、角があってシカのように見える草食獣は全てアンテロープ、またはレイヨウと呼ばれるウシ科の哺乳類で、シカよりはウシやヤギに近い動物です。「科」で分けた場合は、ウシ科となりますが、より大きな括りの「目」で分類すると、シカ科もウシ亜目に含まれるので、何だかややこしい話になります。ややこしさついでに言うと、「アンテロープ」というのは分類群ではなく(アンテロープ科やアンテロープ亜科、アンテロープ族という分類群はない)、ウシ科のうちのヤギ亜科以外の全てに分かれて存在し、ほとんどの種はアンテロープ同士より、それぞれがウシかヤギにより近い関係にあります。
簡単にお話しすると、ウシ亜目のすぐ下の分類にシカ科とウシ科があり(因みにキリン科もウシ亜目の下にあります)、ウシ科の更に下がウシ族、ヤギ亜科、その他多くのアンテロープが含まれるいくつかの族と亜族がある、といった感じです。アンテロープの特徴は、生え変わりや枝分かれしない1対の角、草食、小さい二股の蹄、短い尾などですが、シカとの大きな違いは『角』です。シカの角は生え変わり、枝分かれもします。
サファリドライバーによっては「アフリカにはシカいない」と言い切る人もいますが、実は1種類だけ生息しています。チュニジアなど北アフリカに生息しているアカジカがそれで、ドイツやポーランド、トルコなどに生息しているものと同様の種です。野生状態でずっと存続してきたのはチュニジアの個体群だけだといわれています(モロッコは一旦絶滅後、再移入された)。
南アフリカにもシカがいるのですが、このシカは「ダマジカ」でハンティングの対象動物として移入されたものです。私もサファリガイドの専門学校では「アフリカにはシカいない」と教わっていたのですが、チュニジアのバルドー博物館(残念ながらテロ事件で有名になってしまった、チュニスにある世界最高峰のモザイク画の博物館)でダチョウやヒョウとともにシカが描かれたローマ時代のモザイク画を見つけ、キュレーターの方に「チュニジアってシカが生息しているんですか?」と聞いたら、「いますよ、紀元前から(笑)」と返事をされて驚いた記憶があります。
最後に...「カモシカ=アンテロープ、レイヨウ」と理解されている方もいらっしゃるかもしれませんが、ニホンカモシカを含むカモシカ類は、実はヤギ亜科ジャコウウシ亜族に分類され、アンテロープとはかなり離れた種となっています。
最後まで、ややこしい話ですみません。