日比野倉氏 様から頂いたレポートです。(2007年2月)
1日目
マサイ・マラは、3回目の訪問であるが、今回はサーバル・キャット、カラカルの写真が撮れたらという思いでやって来た。可能性は少ないことは承知の上であるが、同じロッジに6連泊の予定であった。ケニア渡航前より、マサイ・マラは、雨が降っているという情報であったが、旅行会社のスタッフから今年の雨は、尋常ではないと念を押された。サバンナの雨が、どう尋常でないのか全く予測はできなかった。
ナイロビのウィルソン空港から、マサイ・マラの数箇所にエアーケニアの便は着陸するが、最初に降りた滑走路は、ぬかるんでいた。飛行機もスタックの危険があれば、着陸しないだろう。
宿泊は、タレック川沿いのイルケリアニ・ロッジだった。川を見ると濁った水が増水し、いつもの穏やかな流れではなく、濁流の音が響いていた。その音を耳にしながらランチを摂った。
少し休憩する間もなく午後のゲームドライブに出かけた。曇り空のため暑くはなく、丁度良いサファリ日和。トピ、ゾウに出遭った後、雨に濡れ色鮮やかになったサバンナに3頭のチーターを発見というより先に発見して見ていたサファリカーを発見したともいえる。その後、ハイエナ、メスライオンと初日からなかなかの好スタートであった。
2日目
2日目は、フルディサファリ。朝、雨が降っていたため、小雨になるまで1時間程待機してぬかるんだ道を出発した。東のエリアに向かう予定のようだ。しばらく、走るとキリンの群れを発見すると手前に丸くなって寝ている動物がいた。最初はハイエナと間違えたが、体の模様、頭の形からチーターと判明。しばらくすると、雨に濡れた体の毛づくろいを始めた。キリンとチーターの組み合わせは、初めてだ。撮影には動物までの距離が少し遠いが、とりあえずシャッターを押した。おもしろい写真が撮れないかと期待したが、チーターは、しばらくしてキリンの群れから遠ざかっていった。
この日の夕方、ライオンの群れに遭遇、オスはいなかったが、数頭のメスに数頭の子供が、戯れていた。マサイ・マラに訪れるたびにライオンの子供に遭えるが、仕草、表情は、いつまで見ていても飽きない。みんな成長してほしいと祈りつつ、ロッジへの帰路に着くが、だんだん雲行きが怪しくなってきた。
ロッジに到着したとたん、雨が降り出した。この時、翌朝のことは想像もしていなかった。夕食を摂り、テントに戻るが、川の濁流音が気になってしかたがない。私のテントは、タレック川のカーブしている場所に張ってある。目の前で濁った水が、渦巻き、木の枝が水の流れに振り回されていた。寝ようとベッドに横になるが、激しさを増してくる濁流音が、気になって眠れないので、懐中電灯で川を照らしてみると水かさは、増しているではないか。このまま増えていったらと考えると不安がつのる。
3日目
濁流音を気にしながらテントの隙間から外を見ると、薄明るくなってきた。テントを出てみると、雨は小降りなのだが、川の水は昨晩より増えていた。テントの張ってある大地の部分と、水面との差は、あと50センチぐらいしかない。雨は、小降りなのだから、もう、水は増えないかもしれないと思いつつ、歩道を歩いて敷地内の様子を見ようと途中まで行くと、目の前に池が広がっていた。自分のいたテントは、わりと小高い場所だったことを悟った。
水深が分らないため、水に入ることはやめて自分のテントに引き返した。これでは、食事するテントにも行けないし水が引くまで待つことにした。しばらくするとロッジのスタッフがやってきて、朝食だと呼びに来たが、どうやって来たのか不思議だった。
ついて行くと遠回りして水かさの低いところを選んで来たようだ。でも、膝ぐらいまで水に浸かって食事をするテントに着いた。
マネージャーは、うろうろしているし荷物が沢山置いてあった。他の宿泊客の話を聞くと、夜中にテントが浸水しかかった時、荷物を持って安全なテントに引越しを繰り返していたと聞いて驚いた。
自分のテントは、浸水しなかったため、そこまでの状態になっているとは想像していなかった。ドライバーは、一晩中起きてテントを見回っていたというのだ。
テントが、流されて犠牲者が出ていたら、CNNのニュースで放送されていただろうか。手配会社のドライバーは、ここは危険だからとにかく引越した方がいいと言うが、どこへ・・・・・。マサイの村に泊めてもらうという案も出してきた。行く所がないのならもうしかたないのか。
そのうち、引っ越すことができるロッジの部屋の確保ができたらしいと情報が入るが、タレック川が、増水してタレックゲイト近くの橋を渡れないし、他の橋は、「gone(流された) !」と聞かされた。
水が引くまで待ってゲイト近くの橋を渡るしかないのか、ドライバーといっしょに川を見に行くと増水した川の手前で、数台の車が渡ることができず待機していた。川を見て、待つしかないと諦めた。話かけてきたマサイの青年に、泳いで渡ろうかと言うと、笑ってくれた。ロッジに戻ることにして、途中車の中でドライバーの携帯に着信音が鳴る。新しい情報が、入ったようだ。
人間だけ移動させることができる方法が、見つかったのだ。同じタレツク川沿いにフィッグツリーというロッジがあるが、タレック川に架かるエントランスの橋を渡ってロッジに入る造りになっているので、今宿泊しているイルケリアニのロッジからフィッグツリーのロッジの裏まで車で移動し、ロッジ敷地内を徒歩で通らしてもらいエントランスの橋を渡って、タレック川の対岸に行き、引越し先のキーコロックというロッジから車で迎えに来てもらうというのだ。
タレック川沿いにマラ・シンバ、フィッグツリーというロッジがあるが、そこは無事だったらしい。慌しくチェックアウトをして、ロッジを後にして車でフィッグツリーに向かった。フィッグツリーの橋を渡る時、驚いたのは、水面から橋まで3メートルぐらいしかなかった。いつもなら、かなり下に水面がある。
キーコロック・ロッジの車に乗って、晴れた良い天気のサバンナを走った。昨晩、寝ていないのと暖かい陽射しが眠気を誘う。キーコロックに到着、チェックイン。後から聞いた話だが、丁度必要な部屋数だけ空いていたということだ。
とりあえず、人間だけ引っ越すことはできたのだが、手配会社の車とドライバーは、来れないのだから明日から、どうなるのか。夕方連絡をすると言っていたが連絡が来ない。
まあ、明日からここでゆっくりするしかないのかと思い夕食を摂っていると、ドライバーが現われた。車のドアの真ん中ぐらいまで水に浸かって川を渡ってきたというのだ。よかった、これで明日からのゲームドライブはできる。このロッジは、部屋によっては夜中にカバが、歩いて近くまで来るらしいが、鳴き声と草を踏みしめる足音が聴こえた。
4日目
2007年1月1日は、良い天気だ。6時半から朝のゲームドライブ。道は、やはりぬかるんでいた。ニューイヤーは、2頭のセグロジャッカルから始まった。雨上がりの濡れたサバンナで、朝陽に照らされたジャッカルが立っていた。車が近づいても逃げないで、じっと太陽の方向を見ている。体の毛は、濡れていた。 近所の犬のような表情でこちらを見ていた。
その後、ダチョウの親子を発見。数羽の雛が、いっしょにいた。近くには、トピの子連れの群れがいる。朝陽の中、濡れて鮮やかな緑となったサバンナで穏やかな光景が 繰り広げられていた。
10分ほど進むと、数台の車が止まって乗客が、遠くを見つめている。何がいるのか?ドライバーが、遠くに チーターがいるという、どこにいるのかわからない。
しばらくすると、急に車のスピードを上げ、ぬかるんだ道を走り出した。車は、激しく上下動をし、体は座席シートから宙に浮く。ドライバーがしきりに「Sit down!」と叫ぶ。何のことだろう。揺れるから座ってろということなのか。
すると、「チーター」と一言。車の前にチーターの子供が、3頭座っていた。すぐそばに母親のチーターがいる。まだ、生後1ヶ月程の子供が、じゃれ合いながら草の中を走りだした。チーターの子供をマサイ・マラで見たのは2回目だが、背中にタテガミのような毛が残る生後1ヶ月のチーターは、初めて見た。動きが早くて、あまりシャッターを押すことができないまま、親チーターと共に遠ざかっていく。子連れだと親は、危険性を感じると安全な距離まで離れて行ってしまう。ファンダーを覗いていると、子供がジャンプして前足で親の頭を掴んでいる。もっと近くでやってくれたら、無邪気なシーンが撮れたのに残念。
その日の午後は、若いオスライオン、ロッジ近くで遠くにクロサイを発見。小さい虫ほどの大きさにしか見えないが、確かにクロサイだった。4年振りのクロサイだが、遠かった
5日目
ニューイヤー2日目は、スタックした車のけん引から始まった。今回、マサイ・マラに来てから雨で、道やサバンナがぬかるんでいるため、一日4~5回はスタックした車のけん引をしていた。乗っていた車が4WDなのでスタックすることはなかったが、救助することが多かった。ゲームドライブに使用する車は、すべて4WDにした方が良いのだろうが、ケニアでは大変なコストが かかるだろう。
晴天で陽射しも強く、気温も上がってきた。午後は、レア物を発見。フンコロガシである。牛糞の沢山あるマサイ村などでは、よく見かけるが、サバンナでは初めてだった。砂地のところをソフトボールぐらいの丸い塊を2匹のフンコロガシが、運んでいた。1匹が、こけた。すぐに体制を整えて、また運びだした。車から降りて、グッとマクロレンズで撮ってみたいが、原則としてサバンナには降りられないのだ。昆虫も観察しているとおもしろいものだ。
午後は、ヒョウのテリトリーでしつこく観察したが、10台以上の車が来ていた。見たという噂なのか本当に見たのかわからない。
その日、ロッジへの帰りに激しく雨が降り出した。道があっという間に川状態。雷も鳴り出した。ライトをつけての走行となるが、雨が強くて先が見えにくいほどの雨量だ。途中で、スタックして傾いている車を発見、今度ばかりは救助しようがない。ドライバーは、助けを呼びに行ったようで車にはいなかったため、ロッジへ急いだ。
その雨も夕食を摂る時間には、すっかり止んで星が見えている。これが、サバンナらしい雨なのだ。
次の日は、フルディサファリをしようかと言っていたドライバーも、雨でスタックする危険があるから遠くへ行くことはやめようということになった。
6日目
次の日は、雨は降っていなかったが、早朝、サバンナへ出ていくとスタックしたままの車が数台道の脇で傾いている。さっそく、ワゴン車のけん引となった。地元の人たちが、乗っていた。みんな車中で夜明かしした様子だ。しばらく進むと、今度は物資を積んだトラックが、スタックしていた。
ロッジへ運ぶ物資を積んでいた。今回の雨は、いろんなところに影響を及ぼしているようだ。旅行会社のスタッフが、ゲームドライブに行く時は、食べる物を持っていってくださいねと言った意味が理解できた。ロッジに戻れず、車でお泊りもありえるのだ。
その後、見通しの良いサバンナで、数頭のハイエナを見た。イボイノシシは、可愛いと女性に人気があるが、ハイエナも耳が丸くクマのようにも見えなくもないのか好きな女性ファンもいる。
朝のゲームドライブを終えて、午後のゲームドライブまでは、ロッジ敷地内のサバンナモンキーを観察した。子連れの授乳を見ていたら、子供がこちらをジッと見つめていた。
午後のゲームドライブでは、チーターの発見があったらしく、数台の車が同じ方向に走っていた。その後について走っていくと、見通しの良いサバンナに1頭のチーターがいる。周りには、トピ、ガゼルの群れが警戒していた。こんなに見通しの良い場所では狩はできない。チーターは、獲物に接近できる最短距離まで近づいてダッシュするから、身を隠す場所も必要なのだ。何も起こらないと判断して、ヒョウのテリトリーに急ぐ。夕方からまた雨が降りそうな雲行きなのだ。
そんな時、サバンナに虹が出た。
ヒョウは、昼間はほとんど木の上で過ごすしている。テリトリーに着くと1台の車が止まっていた。ヒョウがいる気配だ。木の枝が動いた。確かにいる。望遠レンズで覗いてみると、垂れ下がるシッポと胴体が見える。寝ているのか呼吸する動きで体が動く。
顔が見えないが、やっとヒョウに出遭えた。一昨年は、キーコロックのテリトリーで発見し、良い写真が撮れたが、今回は良い写真にはならないが、一応これでBIG5は、クリアーした。
昨日夕方のような雨のこともあるため、帰りを急ぎぬかるんだ道で車のスピードを上げる。なかなか運転のうまいドライバーだ。ラリーに出られるかも。ロッジに着く前に、雨が激しくなってきた。たたきつけるような雨と雷だ。帰えれるのかと心配になるぐらいの雨なのだ。なんとかロッジに着くが、部屋の前はかなりの水溜りだった。深夜には、雨は上がっていた。
今回は、雨で色々と予定外が多かったが、新しい体験もできた。小雨季でも、ゲームドライブには、食料、長靴、寝袋などが必要になるものだと実感した。やはり地球の天候は、顕著に変化してきている。ケニア北部は乾燥化が進んでいるし、昨年、ケニアでは豪雨による洪水で沢山の犠牲者が出ている。
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