ナミブ砂漠は世界で最も降雨量の少ない砂漠の一つである。当然あらゆる生命にとって極めて厳しい生息環境なわけだが、それだけにナミブを住処とする生き物たちは、いずれも見事な適応を見せている。今回ご紹介するカメレオンもその一つだ。
ナマクワカメレオンは、ナミブに生息する唯一のカメレオンだ。全長は25cmほどで、隠れる場所のほとんどない地表を歩いて移動するため、カメレオンの中では歩行速度が最も速い(そうは言っても相当ノロいが…)。色も地面と同じ茶色系で、興奮したりすると色の濃さは変化するが、カラースキーム自体はほとんど変わらない。また、ナマクワカメレオンの尻尾は細くて短い。樹上で暮らすカメレオンの仲間にとって、尻尾は木の枝からぶら下がったりするための「五本目の脚」として機能する。ところが、木がほとんどない砂漠ではそのような尻尾は必要ないのだ。
今までなかなか撮影のチャンスに恵まれなかったのだが、今回6月13日から催行された道祖神ツアー「ナミビアの自然と民俗11日間」のガイドとしてナミブ砂漠を訪れた際、現地でついてくれたドライバー/ガイドがナミブの自然に非常に詳しい人物だったので、彼に頼んで探してもらった。自力では見付けられなかったこの爬虫類も、エキスパートの手にかかればあっけないもので、スワコプムントの町にほど近い砂丘地帯で、ものの数分で最初の一匹を見付けてくれた。日暮れ間近だったため、初めて撮るナマクワカメレオンは、すでに眠る体勢だったが、目はしっかり開けてこちらを見ていた。地味な生物ではあるが、そこがいかにも砂漠の住人らしい。
南部アフリカは珍しい爬虫類たちの宝庫として世界的にも知られている。しかし現在、多くの種で個体数の減少に歯止めがかからず問題になっている。日本やドイツなどで、ペットとして希少種ほど高値で取引されていることがその主たる原因だ。ナマクワカメレオンも例外ではなく、密猟が後を絶たないという。しかし、捕獲・密輸されても、ナミブの生息環境を人工的に再現するのは非常に困難で、飼育下ではほとんどがすぐに死んでしまうという。野生生物は、本来いるべき場所にいてこそ美しく輝いているのであって、我々人間のくだらない所有欲のために捕獲し、殺してしまうのはいかがなものだろうか。
撮影データ:ニコンD4、AF Micro Nikkor 60mm f2.8、 1/80秒 f25 ISO1250
ナマクワカメレオン
英名:Namaqua Chameleon
学名:Chamaeleo namaquensis
全長:25cm
写真・文 山形 豪さん
やまがた ごう 1974年、群馬県生まれ。幼少期から中学にかけて、グアテマラやブルキナファソ、トーゴなどで過ごす。高校卒業後、タンザニアで2年半を過ごし、野生動物写真を撮り始める。英イーストアングリア大学開発学部卒業後、帰国しフリーの写真家に。南部アフリカを頻繁に訪れ、大自然の姿を写真に収め続けている。www.goyamagata.com