私が本格的なサファリを体験したのは1993年の夏、高校卒業直後に父についてタンザニアに渡ったときのことだった。初めて訪れたセレンゲティ国立公園の想像を絶する広大さと、当たり前のようにゾウやキリンやライオンがいるという「現実」に心を揺さぶられたのを今でも鮮明に思い出すことができる。このときの体験が、自然写真家を志すきっかけとなった。
以来25年に渡ってアフリカの自然を撮り続けてきたわけだが、実は1998年以降セレンゲティには足を踏み入れていなかった。セルフドライブで単独行動をするには、国立公園の入園料や車などにかかる経費が高額になりすぎるというのが主な理由だ。しかし、昨年から道祖神でセレンゲティへの野生動物撮影ツアーをやらせていただくようになった。自分としては、ある意味原点回帰を果たした形だ。
約20年の時を隔てて再訪したセレンゲティは、やはり美しい草原や豊かなサバンナに数多の動物たちが暮らす野生の王国だった。コピーと呼ばれる花崗岩の岩場も、川辺にそびえるアカシアの巨木も昔と変わらずそこにあったし、ライオンやチーターがよく現れる撮影ポイントなども記憶していた通りだった。道路や空港、ロッジなどのインフラは随分と整備されたので、人と車の数は大幅に増加したが、それでもあの場所にはやはり色褪せない魅力がある。
ところで、私がガイドを務める撮影ツアーは、通常のサファリツアーと何が違うのかという質問をよく受ける。セレンゲティ国立公園とンゴロンゴロ・クレーターへのツアーに関しては、まず参加者数を4名に限定しているのが最大の特徴だ。使用するサファリカーは6人乗りなのだが、目一杯乗ってしまうと機材を置いたり大型の望遠レンズを扱うスペースが全然なくなってしまうためだ。また、一般的なサファリとは時間の使い方がまったく違う。動物をただ見て終わりではなく、もし相手が何か面白い行動に出そうだと踏んだり、光の条件が良くなりそうだと判断したら、車のポジションに微調整を加えながら一箇所に徹底的に居座ったりもする。そうすることでよりよい写真を撮れる可能性が増してゆくと考えるからだ。
写真は5月の後半に行ったツアーの際に、セレンゲティ南部のゴル・コピー周辺で撮ったライオンの新婚ペア。15分に一度のペースで交尾を繰り返していたので1時間ほど付き合わせてもらった。
撮影データ:ニコンD850、AF-S Nikkor 80- 400mm f/4.5- 5.6 VR、1/3200秒 f8 ISO500( 画角86mmで撮影)
やまがた ごう 1974年、群馬県生まれ。少年時代を西アフリカのブルキナファソ、トーゴで過ごす。高校卒業後、タンザニアで2年半を過ごし、野生動物や風景の写真を撮り始める。2000年以降は、南部アフリカを主なフィールドとして活躍。サファリツアーの撮影ガイドとしても活動している。写真集「From The Land of Good Hope(風景写真出版)」、著書に「ライオンはとてつもなく不味い(集英社新書ヴィジュアル版)」がある。日本写真家協会(JPS)会員。www.goyamagata.com