初心者がゼロから始める登山 キリマンジャロへの道 Lesson 10 高所登山と健康

弊社では、標高3,800m以上の高所での宿泊を含む登山・トレッキングツアーに参加予定されている方全員に「登山者健診ネットワーク」で決められた健康診断を受診していただいています。対象はアフリカNo.1~3の高山、キリマンジャロ、ケニア山、ルウェンゾリとなります。健康診断の内容は、心電図や肺機能のチェックなど、一般的な健診よりも高所への登山やトレッキングに特化したもので、健康状態に起因する危険性が低いことを確認した上で、お申し込みをお受けしています。
「登山者健診ネットワーク」は、日本登山医学会の医師と、高所登山を取り扱う6つの旅行会社によって作られています。事前の健康診断により、参加者の身体の状態に起因する高所登山・トレッキングの際の潜在的なリスクをチェックして安全性を高めるとともに、実際の登山・トレッキングの際に発生した症状と対応などをフィードバックすることで高所登山と健康の関係理解を深め、ツアー登山の安全性を高めていくものです。
年に数回は、医師とツアーリーダーによる研修会も開催しています。今回は、ツアーリーダー研修会で検討された内容のうち、特に気を付けたいいくつかの点に関してご報告いたします。

◆睡眠時無呼吸症候群と高所登山

自覚・無自覚患者を合わせると、かなりの患者数になるという睡眠時無呼吸症候群。高所では酸素が薄くなり、特に健常者でも呼吸が浅くなる睡眠時は、体内の酸素が欠乏しがちです。睡眠時に呼吸が滞ってしまえば、当然のように高度障害が出やすくなります。自覚症状があり、マウスピースや携帯用人工呼吸器を携行しつつであれば、高所登山は不可能ではありませんが、むしろ怖いのは症状に無自覚な方の高所登山です。何の対処もされずに高所登山をしますと、非常に高い確率で低酸素の影響を強く受けますし、高山病が重症化する可能性があります。キリマンジャロのように高山病の症状が強く出始めてからすぐに下山できる山であればまだよいのですが、チベットやヒマラヤのように標高を下げて安全地帯に下りるために何日も移動しなければならない場所では非常に危険です。普段、睡眠時にいびきをかくような方は、一度チェックされた方が良いでしょう。

◆心臓疾患に潜む登山でのリスク

心臓疾患は標高の高い低いにかかわらず、山での心臓性突然死、特に中高年の方の突然死を招きやすい病気です。実は、キリマンジャロでも年間数件の死亡事故が発生していますが、その多くがこの心臓疾患(心不全)が原因です。先天的な心臓の欠陥もなく、普段から激しいスポーツを毎日のように行う、年齢的にも若い方は別として、中高年の方で年間2週間程度の山歩きや定期的な運動を行っていない方のリスクは高く、定期的な検査を受けていただくことが望ましいとされています。
突然死の件数は、国内外問わず年間かなりの数にのぼりますが、統計によると特に登山開始初日の死亡率が非常に高い(2日目は半減)と言われます。予想できることですが、年間2週間程度の山行をしている方の突然死率は、運動をしていない方と比較するとかなり低いとのこと。昔やっていたからといって、中高年になって充分な準備なしに登山を再開すると、突然死につながりやすいようです。特に中高年の方には、心臓・呼吸器関係のチェックをきっちり行い、定期的な運動をして準備をし、登山に望むことが重要かと思います。高所では症状が強く出やすくなることが多いため、ぜひ、日頃から健康に留意して安全登山に努めていただければと思います。

羽鳥

道祖神

Share
Published by
道祖神