先日、エチオピアに行ってきました。この国は、旅行者が求めるものに対して、実に様々な表情を見せてくれる、懐の深い国です。エチオピアのどこを訪れて、誰に会い、何を見て、何を聞いたか、旅の仕方によって本当に違った印象を与えてくれます。この国が、本当に多様な魅力が溢れている証拠です。
今回は、そんなエチオピアの北部へ行ってきました。平均して標高2000m近い峠が連なる高原の地域です。また、各地には3000年に及ぶ建国の歴史を通して遺された数々の世界遺産が点在しています。全行程2,700㎞を陸路で走り抜けて、長い歴史と文化や素晴らしい大自然の景観、その中で日々の暮らしを営む人々と触れ合い、じっくりと地を這うように旅してきました。
まずは、首都のアディスアベバを出発して3日かけて世界遺産の岩窟教会群が有名な古都ラリベラを目指します。このエチオピアの北部を旅行するには、2,000~3,000m級の峻険な山岳地帯が広がる為に、一つ街を移動するのにも、ひたすら峠道を超えていかなければなりません。自ずと移動には時間がかかってしまう事になります。世界遺産のある有名な訪問地には、飛行機の路線がある為に、ひとっ飛びしてしまう方が効率良く観光できて、体力的にも楽なのですが、実はこの長い旅路こそが何と言っても今ツアーの魅力でした。次々と超えて行く峠道の圧倒的な景観、グレート・リフトバレー(大地溝帯)によって分断されたダイナミックな地形の中を走るのは、言葉を失う素晴らしさでした。そして、道中では、そんな自然環境の中でも逞しく生きる地元の村のマーケット等にも立寄り、彼らの日常生活が持っているエネルギーに圧倒されてしまいました。
勿論、世界に名だたる世界文化遺産の数々の素晴らしさは、言うまでもありません。まず最初に訪れたのは聖地ラリベラ、1月7日のエチオピアン・クリスマス、ゲンナでも有名な街です。(ご興味のある方は、年末年始に特別ツアーがありますので是非!)ラリベラでの岩窟教会群では、槌とノミの時代にどうやってこんなものを造りあげたのか目を見張る教会の数々と、現代にも何ら変わることなく信仰に生きるエチオピア正教徒の人々、どれもが神話の世界から現代に出て来たようで、タイムスリップしてしまったような不思議な感覚にとらわれました。実際に徒歩で、教会群を歩いてみると案外と修道士達も気さくな雰囲気の方が多く、また子供達はどこへ行っても元気に後を追ってきます。また、ラリベラでは伝統的なコーヒー・セレモニーやエチオピアの地酒でもある蜂蜜酒(タッジ)にも挑戦しました。コクがあって濃厚な味わいなのですが、実際の度数以上に“効く”飲み物なので、ついつい飲み過ぎは要注意です。
ラリベラを出発した後は、ティグレ州を抜けて、エチオピアの最北・古都アクスムを目指します。途中、立寄ったティグレ州の州都メケレという街で1泊して一休み。このティグレ州にも、多くの岩窟教会があります。ラリベラでは、街中にあり気軽に訪問する事が出来る岩窟教会ですが、ここらでは人里離れた場所にひっそりと造られているものが多く(中には断崖絶壁の中腹に彫り込まれている教会も!)観光整備されていない分、その歴史と厳粛な雰囲気には、何とも言えない剥き出しの迫力がありました。
翌日のメケレから次の目的地アクスムまでは、またも山越え谷越え…、つづら折りの峠道を越えて行きます。途中、1896年にエチオピア軍がイタリアの侵略を破った『アドワの戦い』と呼ばれる会戦の起こった山岳地帯を抜けて行きます。ガイドさん曰く、エチオピアには「自分で自分の指を切り落とす事がないのと同じように、エチオピア人はアドワの戦いを忘れる事はない」という諺(?)があるそうです。このアドワの戦いの戦勝記念日、3月2日は祝日にもなっています。
さて、日本を出発して8日目、いよいよエチオピア北部の旅行も半分やってきました。エチオピア観光のハイライト1つ、古都アクスムを訪れます。エチオピア文化発祥の地であり、紀元前の時代から数々の王が栄えたエチオピア王朝の中心だった場所です。数多くの文化遺産が発見されていて、古代の遺跡や歴代の皇帝達の遺品も見応えがありますが、このアクスムには1つの伝説があります。旧約聖書に記されている、モーセの十戒が刻まれた石板を納めている「アーク(契約の箱)」がイスラエルよりこの地に渡り、現在まで3000年以上も受け継がれているそうな…。エチオピア全土にあるエチオピア正教(オルトドクス)の全ての教会は、一般人が立ち入れない最奥部の部屋に、「タボット(聖櫃)」と呼ばれるご神体を安置していますが、それらは全てのものが、この「アーク」のレプリカだと言われています。勿論、我々のような外国人観光客がその至宝を見る事など出来ないのですが、安置されている至聖所(以下の写真・左上)とその番人の姿を見る事は出来ます。何でも、至聖所の番人に選ばれると、生涯その敷地内から出る事はなく、「アーク」を守り続けるのだとか。
毎年1月19日のティムカットと呼ばれる大祭には、エチオピア全土から人が集まり、このアクスムでは大規模な祭典が執り行われますが、特別な時期でもないアクスムは、静かでゆったりとした雰囲気の過ごしやすい街でした。神話の世界からの歴史が地続きに積み重なって形成されている街なのですが、遺跡の数々も日常にすんなりと溶け込んでいる様が何とも印象的です。エチオピアの北部を北へ北へと上がってきましたが、いよいよこのアクスムが折り返しです。ここからは南北60Kmにも及ぶセミエン山塊を横目に南下していき、再び首都のアディスアベバへと向かいます。
後編へつづく
生野