Categories: 山形豪 WILD AFRICA

WILD AFRICA 19 カラハリでチーターの全速ダッシュを撮る

広大な平原にガゼルたちが散らばり草を食む、一見のどかなカラハリの風景。しかし、実は草むらの奥には狩りのチャンスをうかがうチーターが潜んでいる。突如、チーターはそのスレンダーでしなやかな体を爆発させるかのように飛び出し、ガゼルに襲いかかる。一瞬にして平穏はパニックへと変わり、自分が標的であることに気付いたガゼルは右に左にと舵を切りながら、何とかこの地上最速のハンターを振り切ろうとする。チーターも負けじと長い尾を振り回しながらバランスを取り、獲物に食らいついて行く。
2012年8月24日、13時56分の出来事だ。チーターのハンティングを写真に収めたかった私は、3日間一頭のメスを追い続け、ようやく全力疾走する姿を撮影するに至った。チーターに限ったことではないが、肉食獣の狩りを撮るのはとても地道な作業である上に、多くの条件が一度に満たされないと成功しない。
当然ながら、まずは被写体を探し出すところからプロセスは始まる。ゲームドライブに出たら、周囲に目を光らせ、双眼鏡で薮の中や木陰を覗き、路上に残されている足跡に注視し、すれ違った人々と情報交換を行う。いざチーターが見付かったら、後はひたすら張り付いて待つ。ちょっと目を離した隙にチーターが獲物を見付けてしまい、気付いた時には狩りが終わっていたなんて可能性もあるので、集中力をいかに保つかが大きな課題となる。
また、仮に準備万端だったとしても、都合良くこちらに向かって獲物を追いかけてくれるとは限らないし、猛スピードで走る相手をファインダーの中に捕らえ続け、ピントを合わせながら、そこそこアップで撮影するのは決して楽ではない。過去、自らの技量の無さによって決定的なチャンスを幾度も逃してきた身としては、相手がスプリントに入る瞬間は毎回猛烈に緊張する。
今回、追跡3日目にしてやっと条件が揃い、疾走するところまでは撮影できたチーターだったが、実はこの時彼女は獲物を捕らえることができなかった。時速100km以上で走れても、持久力のないチーターの狩りが成功する確率は50%程度なのだ。本当ならあと数日粘りたかったのだが、残念ながらこちらの時間がなくなってしまったので、続きは次回と言ったところだ。
撮影データ:ニコンD4、AF-S 500mm f4、1/3200 f8 ISO1600
南アフリカ、カラハリ・トランスフロンティア・パークにて
写真・文  山形 豪さん

やまがた ごう 1974年、群馬県生まれ。幼少期から中学にかけて、グアテマラやブルキナファソ、トーゴなどで過ごす。高校卒業後、タンザニアで2年半を過ごし、野生動物写真を撮り始める。英イーストアングリア大学開発学部卒業後、帰国しフリーの写真家に。南部アフリカを頻繁に訪れ、大自然の姿を写真に収め続けている。www.goyamagata.com
道祖神

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