ナイジェリア南東部とカメルーンにまたがるクロスリバー地域にはいくつかの土着信仰を持つ民族が住んでいる。今回取り上げるエコイ族はその中でもレオパードを意味する“Ngbe”と呼ばれる結社を持ち、古くから力を持った部族である。この部族の頭上仮面はアフリカの仮面の中でも特に呪術的な力を感じさせる。

ユニークな髪形の頭上仮面 H40cm W55cm

アフリカの仮面の中で、その本体に動物の皮を張ったものは非常に稀である。私が現地を訪ねた折りエコイ仮面の由来を聞いた時の話だが、それによると、皮を張った仮面を作るようになったのは、昔に行われていた生首を頭上に載せた舞踏儀礼が、20世紀初頭、英国の植民地時代に野蛮だということで禁止になり、それに代わるものとして木製の本体にカモシカの皮を張り、木の葉や皮の樹液で皮膚の色に似せて本物に近い形を作ったのが始まりだという。昔は、他部族との戦闘に勝利すると、祝宴の舞踏の際、敵の首領の首を切り取り頭上に載せて、そのパワーを自分たちの中に取り入れようとする儀礼が行われていた。また、何年か毎に取り行われる大きな祭礼や儀礼の時には、生贄として奴隷などを祖先の祠に捧げ、その生首を頭上に載せて踊ったともいわれている。
女結社の頭上仮面 H30cm

頭上仮面 H28cm

エコイの仮面には2つのタイプがある。一つはヘルメット状になっていて頭からすっぽりと肩までかぶるタイプと、もう一つは首まで立体の造形を作り、その下に籐などで作られた籠状のものを付けて頭の上に載せるタイプである。ヘルメット状の仮面には1つの顔、2つの顔、3つの顔を持つ仮面がある。2つの顔、3つの顔の仮面には世の全てを見渡せるという意味合いが込められている。またエコイ族には男と女の秘密結社があり、それぞれ男の仮面、女の仮面が存在する。女の仮面は女の子が結婚する前の儀礼などに使われ、男の仮面は葬式、裁判の決裁役、不正人の監視役、農耕祭など社会的な役割を担う儀礼に使われる。仮面は、生と死の橋渡し役、祖先との伝達役として超人的な力を持つ存在でなくてはならず、威嚇し、全ての人が怖がり、絶対に立ち向かえない力を持つ存在であった。
頭上仮面 H32cm

頭上仮面 H27cm

今回、写真で紹介する仮面の一つは、女結社の仮面で髪の毛を角のように表現したユニークな頭上仮面である。これはエコイ社会において髪を非常に重視していることの証である。この頭上仮面は技術的に卓越した作り手による美しい女性の顔で、静かな表情は何かを語りかけるようだ。これは、エコイ仮面の神秘性と造形力を兼ね備える傑作の一つであり、全てのアフリカ仮面が内蔵している力を最もストレートに表している仮面でもある。
写真提供/小川 弘さん

小川 弘さん
1977年、(株)東京かんかん設立。アフリカの美術品を中心に、アフリカ・インド・東南アジアの雑貨、テキスタイルなどを取り扱っている。著書にアフリカ美術の専門書「アフリカのかたち」。公式ウェブサイト http://www.kankan.co.jp/
道祖神

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