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WILD AFRICA 29 サバンナの珍獣・ツチブタ

ツチブタほど奇妙奇天烈という言葉がぴったりと当てはまる動物もいまい。ブタのような鼻、ウサギのような耳、丸く湾曲した背中と太く長い尻尾、中途半端に生えた毛。どれをとっても何かがおかしい。その姿かたちは、正に珍獣と呼ぶにふさわしい。
ブタと名がついてはいるが、ツチブタは一目一種の動物であり、イノシシなどとはまったく関係がない。主食はシロアリやアリで、前足の強力な爪で巣を破壊し、出てきた虫を長い舌でからめとって食べる。赤道付近の熱帯林地帯など一部地域を除き、サハラ以南アフリカに極めて広く分布しているため、決して希少種ではないが、とても警戒心が強い上に夜行性でもあるために通常のサファリでお目にかかることはまずない。写真は南アフリカのキンバリー市近郊で夜間に撮影したものだ。スポットライトが届くギリギリの距離だったので、カメラのISO感度を思い切り上げて撮った。画質にザラつきがあるのはそのためだ。
姿を見るのは難しくても、ツチブタが辺りにいるかいないかを判断するのは簡単だ。そこかしこに直径50cmほど、深さ数メートルの斜めに掘られた穴があったら、そのエリアにはツチブタが暮らしている。あんな巨大な穴を掘る動物は、アフリカのサバンナには他に存在しない。この穴が実に厄介で、ブッシュを歩く際には、気をつけていないと足を取られて骨折などの大怪我をしかねない。特に足元が見えづらい草むらでは注意が必要となる。オフロードで車を運転する場合も油断ができない。大型四輪駆動車でさえ車輪がはまってスタックしたり横転した事例はあり、死亡事故も起きている。そのため現地の住民からは迷惑な存在として扱われることが多い。
ところで、ウォーキングサファリの最中にツチブタの穴を見つけても、むやみに穴の正面に立って中を覗き込んだりしないように。使い古しの穴は多くの動物たちに再利用される。特にイボイノシシはツチブタの穴をねぐらとしてよく使う。中にイノシシがいる時に出口を塞いでしまうと、相手は退路を絶たれたと思い込んで突進してくる可能性があり非常に危険だ。中を確認したいのであれば、開口部の横からそっと覗き込むようにすることをお勧めする。入り口にクモの巣が張っていたら、そこに哺乳動物はいないだろう。しかし、もしかしたらヘビがいるかもしれないのでご注意あれ。
撮影データ:ニコンD800、AF-S VR 80-400mm f4.5-5.6、1/200秒  f5.6  ISO5000
ツチブタ
英名:Aardvark
学名:Orycteropus afer
全長:1.45〜1.75m
体重:40〜65kg
写真・文  山形 豪さん

やまがた ごう 1974年、群馬県生まれ。幼少期から中学にかけて、グアテマラやブルキナファソ、トーゴなどで過ごす。高校卒業後、タンザニアで2年半を過ごし、野生動物写真を撮り始める。英イーストアングリア大学開発学部卒業後、帰国しフリーの写真家に。南部アフリカを頻繁に訪れ、大自然の姿を写真に収め続けている。www.goyamagata.com
道祖神

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