アフリカには多種多様な人形がある。その多くは愛玩用というより占いの儀式に使うものであったり、願いを託した身代わり像であったり、土着信仰に由来している。しかし、今回ご紹介するトーゴのエウェ族のコロン人形はそうした一般的な人形と全く違うジャンルに属す大変ユニークなものである。

トーゴ エウェ族のコロン人形 左からH28cm、35cm、24cm、38cm、22cm

トーゴは1885年にヨーロッパ連合の取り決めによりドイツの植民地になった。ドイツはトーゴをアフリカの文明化のモデルとして他のヨーロッパ諸国に示そうと鉄道の建設や道路整備などに着手して急速な近代化を進めた。この政策のためにドイツからは優秀で教養のある上流階級の人間が派遣され、豊富な資金とエネルギーが惜しみなく使われた。トーゴ、特にエウェの人々の目にこのような最新の技術を駆使する白人たちは特別の魔力を持った存在として映ることになった。テクノロジーとは一切無縁の長い時代を過ごした人々にとって次々と新しいものに出会うということはどんなことだったろう。ある意味で白人たちは神のような存在として出現したのだとしても不思議ではない。
トーゴ エウェ族のコロン人形 H72cm

トーゴ エウェ族のコロン人形 H70cm

祖先信仰としてコロン人形を祀る習慣を持つエウェの人たちであったが、ドイツの入植者からは生贄の血液を伴う伝統的な祭祀を禁じられていた。そのこともあり、白人を象った新しい種類のフェティッシュを注文する人たちが現れて、白人の典型的な服装や装飾品を付けた人形が作られるようになった。エウェの家庭の祭壇では白人の持つ力を取り入れようとこの新しいコロン人形が飾られ、不吉な事から身を守るために願いを込めて大切に祀られた。伝統的な儀礼とは異なった方法でこのような人形が作られたことはドイツ人の入植がエウェの社会にポジティブな意味を持っていたということだろう。これらの独特なコロン人形は1885年以前には見られず、1914年以降にもほとんど見られない。この30年弱の期間は白人が神のように考えられた歴史的に稀にみる幸福な時間であったといえるだろう。その意味で、最初の入植者としてのドイツ人が上流階級の人間であったということは重要である。彼らは勇気があり、優しく、勤勉であり、惜しみなく文明の利器を伝えた。
トーゴ エウェ族のコロン人形 H67cm

トーゴ エウェ族のコロン人形 H68cm

エウェの人たちがドイツ人を恩人として尊敬し、人形に表現したことはうなずける。
写真提供/小川 弘さん

小川 弘さん
1977年、(株)東京かんかん設立。アフリカの美術品を中心に、アフリカ・インド・東南アジアの雑貨、テキスタイルなどを取り扱っている。著書にアフリカ美術の専門書「アフリカのかたち」。公式ウェブサイト http://www.kankan.co.jp/
道祖神

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