毎年1月10日に西アフリカ・ベナンで開催される、ブードゥー教(現地ではヴォドンと呼びます)最大のお祭りを訪ねるツアーの添乗に行ってまいりました。
ハイライトのひとつは、そのお祭りなのですが、もうひとつ、この地域で面白いのは2カ国それぞれ多様な民俗性。
アフリカの地図があればぜひ見ていただきたいのですが、ベナンもトーゴも南北に長く、例えばトーゴは、ギニア湾に面した東西が70kmなのに比べて、南北は約550km。
それだけに気候も自然も人も宗教も南北でたくさんの違いが見られます。
トーゴの首都ロメからスタートしたツアーは、まずは北上。
南部地域では、エヴェの人たちの村、学校、マーケットなどに立ち寄り、エヴェのダンスも見せてもらいました。
2日目には山がちな景色が続き、民族もアナ、コトコリ、そして西アフリカで多く出会うフラニやハウサの人たちが混じってきます。
マーケットで見かけるものも、カラバッシュ(ひょうたんの一種)や、ビサップ(ハイビスカス。お茶やジュースになります)などが目に付くようになり、文化の違いが見えてきました。
そして翌日はいよいよトーゴのハイライトでもあるクタマクの村へ。
世界遺産でもあるこの村は、タンベルマと呼ばれる民族が住む要塞のような家’タキエンタ’が有名です。
要塞の役割を果たしていただけあって家の中には入りにくく、また中も決して開放的とはいえない、複雑なつくり。屋根の上には見張り台もあり、敵から身を守るためによく作られています。
もちろん現在では、伝統を守るために作られているのですが、意外にもその集落はかなり広い範囲で、’要塞’の村に車が迷いこんでしまったようでした。
タンベルマの人たちは、ベナンとの国境にまたがって住んでいるのですが、ベナンに入ったとたんに、その名前はソンバ、そして家は’タタ・ソンバ’と呼ばれています。(続いている集落にも関わらず、世界遺産に登録されているのはトーゴ側のみです)
ついでながら、トーゴとベナンは1時間の時差があり、ベナンに入ったとたんに「え、もう19時?」ということになってしまい、夕食の時間が遅くなってしまうと、ホテルに急ぐことになりました。
ベナンに入国してからは、再びギニア湾を目指して今度は南下です。
トーゴ同様、北部のほうは山がちな地形で、南部に比べると、乾燥し、岩も多い過酷な環境に住む人が多いわけなのですが、その土地、土地に馴染み、伝統を守りながら暮らす人々がいるのだと、あらためて感じました。
ベナンも南部に近づいてくると、ブードゥー教の寺院、祭壇などが目に付くようになります。
ヴォドンの神様は、日本と同じ、八百万の神様。雷の神様、ヘビの神様、鉄の神様などなどあり、皆それぞれの神様を信仰し、町や村のいたるところに神像や神社があります。
しかも銅像だったり壁に描かれる神様、人、動物はデフォルメされていて、ポップで可愛いものが多く、何となく親しみをもてるのが特徴です。
ブードゥー教とは深いつながりがあるのが、ベナンで栄えたダホメー王国。
このツアーでもダホメー王国の王都であったアボメーで、王宮(現在は博物館)を訪ね、歴代の王の繁栄と、ブードゥー信仰についても垣間見ることが出来ます。
ツアーの後半は、ベナンの海岸地域へ向かうに連れてブードゥーの存在感をより強く感じていくことになりましたが、そのクライマックスになったのが1月10日の祭りでした。
ベナンは、ブードゥーの発祥地でもあり、特にさかんな南部ではいくつかの聖地がありますが、一番に挙げられるのが海岸沿いにあるウィダ。
祭り当日は、ビーチに設置されたステージを中心に、指導者たちの入場から始まり、神様達が代わる代わる登場して踊りを披露。
大きな、わらを被った’ザンベト’はぐるぐると激しく回り、写真を撮ろうとしていた私も何度もぶつかりそうになりましたが、死者の魂と言われるザンベトには絶対に触れてはいけないようです。
集まった人たちも、お揃いの衣装を着て踊る人たち、輪をつくって儀式をする人たち、子供を背負った売り子たちなど様々で、独特の雰囲気が非常に面白いです。
地元の人々が思い思いに盛り上がる一方、来賓席には、ベナンの大臣、各国大使、そしてベナンを代表するアーティスト、アンジェリック・キジョまで並び、国を挙げての大きな祭典であることを感じました。
そして街中には神様たちが練り歩き、広場では神様たちが踊り、人々を追い掛け回していて、これがまた地元のお祭りというノリで楽しめます。
人々を愕かすような、その風貌や立ち振る舞いは、日本の獅子舞、またはナマハゲのような感じでしょうか。
一部ではおどろおどろしいイメージもある’ブードゥー教’ですが、日本人が昔から信仰してきた自然崇拝と同じで、しかも’神様’を見ている限り、ユーモラスに溢れた平和な宗教という印象でした。
中南米でも信者の多いブードゥー教だけに、最近ではこの祭りに訪れる観光客も増えつつあるようです。
それでも街の広場で神様達が踊り、現地の人たちが盛り上がる様子を見ている限りは、やはりベナンの人たちのための貴重な祭りであり、またこれからもそうであって欲しいと願いつつ、ウィダを後にしました。
紙田