ゴールデンウィークに企画している、インド、イエローストーン(北米)、インドネシアの、アフリカ以外の地域での3つのワイルドライフツアーのうちの一つ、インドネシアのツアーに添乗させていただきました。目的はカリマンタン(ボルネオ島)のオランウータンと、コモド島のコモドドラゴンという、インドネシア野生動物界のBIG2を見ることです。
インドネシアという国自体が13,000を超える島々で構成された世界最大の島国ということもあり、日本と空路で結ばれているインドネシアの各国際空港、また目的となる野生動物が生息している島々がそれぞれ離れているため、首都ジャカルタのあるジャワ島、カリマンタン島(ボルネオ)、バリ島、フローレス島、コモド島、リンチャ島と、6つの島へそれぞれ空路と海路で結んだアイランド・ホッピングの旅となりました。陸路はほぼ利用せず、各島内・周辺での移動は船。かたやリバーボート、かたや沿岸用のスローボートで、この船の船室に泊まりつつ各地を訪問することも可能なのですが、今回はロッジ・ホテルに宿泊し、日帰りの船移動を繰り返す内容となりました。
オランウータンを見るのは、ボルネオ島のインドネシア領部分の南端にあるタンジュン・プティン国立公園。海に注ぎ、汽水域の広いクマイ川から、更に支流のセコニエル川を遡上して、森の中、川沿いに建つロッジを目指します。寝泊まりもできる快適なリバーボートでゆったりと川を進んでいくと、ニッパヤシが川沿いによく繁る汽水域から、パンダナスが繁殖する水域へと、徐々に植生も変わっていき、樹冠も高くなり、ロングテイル・マカク(カニクイザル)やテングザルを川沿いの木々に見かけるようになっていきます。オランウータンの生息域は、この川の上流に向かって右手に広がる国立公園がメインになっていますが、森の奥だけではなく、時にはパンダナスの新芽を食べるために川沿いに姿を現すこともあるようです。
初日は拠点となるロッジへの移動と、サルや鳥の観察、ロッジまでの途中にある餌付け場への訪問、というスケジュールです。国立公園と言っても、かつてアブラヤシのプランテーションが広がっていた二次林が多く、オランウータンの食料となる実のなる樹木や、芽などが食用に適した樹木が減っており、公園内にいくつか設けた餌付け場や調査センターを設けて、森に食料が足りなくなった時期の補助や、個体数の推移、密猟された子供のオランウータンを野生に返すためのリハビリを行っています。
偶然かつラッキーなことに、最初の餌付け場で、見事なフランジ(頬だこ-顔の両側、頬の部分にある張り出し-)を持つオスのオランウータンに遭遇。
餌付け場というと「簡単に見られる」と思ってしまいがちですが、森に食料が豊富な時は餌付け場に姿を現さないこともあり、通常は単独で行動する野生のオランウータンですので、オスを見ることができたのは非常にラッキーでした。(オスは“森の王様”でもあり、時としてアグレッシブですので、メスのように近くに寄ることはできません)
いかにも熱帯雨林の宿泊施設といったロッジに泊まった翌日、更に川を遡上したところにある、かつてのリハビリセンターで現在は調査施設として機能しているキャンプ・リーキーを訪問しました。
霊長類の研究は、ケニア生まれの人類学者ルイス・リーキー博士による、自然の生息地で観察するフィールドワーク研究の促進によって大幅に進歩しましたが、その最初期の研究を行ったのがリーキー博士が選んだ3人の女性、ジェーン・グドール(チンパンジー)、ダイアン・フォッシー(ゴリラ)、ビルーテ・ガルディカス(オランウータン)でした。タンジュン・プティンはビルーテ・ガルディカス博士のフィールドとなり、そのため研究施設にはリーキー博士の名前が付けられています。そして、なんともラッキーなことに、私たちと時を同じくしてガルディカス博士も滞在しており、直接お会いすることもできました。
キャンプ・リーキー周辺で、キャンプを含む2カ所の餌付け場を見学し、特にキャンプの研究施設付近では、もう一頭の“森の王様”、トムと名付けられたオスのオランウータンにも出会うことができました。野生のオランウータンは、野生に近ければ近いほど、地上に降りるリスクを承知しており、ボルネオでの好敵手となる「ウンピョウ」が生息している地域では、餌付け場といっても地面に降りてきてその場で食料を食べ始めることはしません。一旦木から降りて食料となる果物等を掴み、樹上に戻って食べます。見事に木から木へと移動し、スルスルと上り下りを繰り返す様も観察できます。この餌場では、親子や若いオス、若いメスのオランウータンをじっくり観察できました。
オランウータンの森に2泊した後、空路カリマンタンからジャカルタを経由してバリ島へ。バリ島で1泊した翌日、さらに国内線でコモド諸島への入り口となるフローレス島へ移動します。フローレス島での目的はもちろん地上最大のトカゲ「コモドドラゴン」。主に生息しているコモド島とリンチャ島へ、こちらは海上を船で移動して訪問します。
コモド島を含むコモド国立公園は世界遺産にも指定されており、希少なコモドドラゴンの生息する陸上のみならず、ウミガメやイルカ、マンボウなども生息している海面下の豊かな自然でも知られており、ダイビングスポットとしても世界有数の海。
コモド島周辺では、スローボートでののんびりとした海上移動を楽しみつつ、美しい海でのシュノーケリングや、数万匹のオオコウモリ(フライング・フォックス)が餌を探し求めねぐらの島を飛び立っていく圧巻の光景も堪能できます。
現在生息しているコモドドラゴンは、生息地の4つの島の合計で6,000匹未満。オスの方がメスより個体数が多く、8月の繁殖期にはオス同士でメスをかけて戦う“コンバット・ダンス”を見ることもできます。いずれの島でもシーズン中はほぼ間違いなくコモドドラゴンが見られるのですが、変温動物でかつ大きな体を持つコモドドラゴンは、エネルギー効率を考えて、よほど狩猟の成功率が高くない限り捕食行動はせず、食料の匂いのする国立公園施設のキッチン周辺に集まっている様子がよく見られますが、今回のツアーでは、トレッキング中の森の中、よく日の当たる丘の上で体を温めている光景を目の当たりにすることができました。
オスのコモドドラゴンは最大で体長3m以上、体重は100kgを超えますが、この時見た個体も、そのくらいの大きさはあったのではないかと思います。唾液中のバクテリア(なんと60種類!)を使って噛みついた動物(バッファローやイノシシなど)に敗血症を起こさせて弱らせ、捕食すると考えられていましたが、最近の研究でバクテリアとは別の毒も持っていることが知られるようになりました。いずれにしても噛まれると大変なことになるため、レンジャーが二股になった杖をもって同行し、近づいてもせいぜい3m程度の距離で観察・写真撮影を行います。2つの島で成獣・子供含め、合計14頭のコモドドラゴンを見ることができました。共食いをするため、孵化してすぐの個体は身体が大きくなるまで樹上で生活するのですが、その樹上で生活する個体を見られたのはラッキーでした。
インドネシアと言えば、ジャワ島の仏教遺跡やバリ島があまりにも有名ですが、あえてそこに注目しないことによって、他の島々の良さのようなものも見ることができた旅でした。コモド諸島の漁村の人々の暮らしぶり、歴史的にクリスチャン(カトリック)の多いフローレス島、勇猛果敢な森の狩人として名をはせたダヤクの人々が暮らすカリマンタンなど、島々それぞれに特色があり、人々も明るく親切で、その意味でも楽しめたインドネシアの島々の旅でした。何より、食事が日本人の味覚に合います。これは旅する上でやはり重要ですね。
普段から激しい潮流で洗われているコモド諸島の海は、11月~2月の雨期には大荒れとなり、船の航行が難しくなります。ですので、このインドネシア野生動物界の2大巨頭を一回の旅で見ることができるのは、上記を除いた約8か月間となります。意外に長い期間、この内容の旅はできますので、ゴールデンウィークに限らずまたこのツアーを企画する予定です。
東南アジアの野生動物を見る旅は、アフリカとはまた違った体験ができ、異なる自然や文化に触れることもできますので、まだ足を運んでいない方は、是非訪問してみてください。
羽鳥