98年、レンジャー養成所であるタンザニアのムエカ野生生物管理大学で一緒だった大森憲治は、タンザニアで撮影コーディネイター兼ガイドとなり、一方の私は、ケニアのロッジでサファリガイドになりました。「いつか一緒に仕事をしたい、タンザニア観光の魅力を広げられる、二人だけにしか出来ないツアーを組みたい!」と思い続け、道祖神とお客様のおかげでついに私たちの夢が叶いました。お互い歳を取りましたが、その分の経験値を活かした個性的なサファリができたと思っています。
目的地はサファリ好きなら一度は訪問する、もしくは憧れの地であろう北部タンザニアのセレンゲティとンゴロンゴロです。2カ所ともユネスコの世界遺産に登録されています。ゴールデンウィークのタンザニアは大雨季の真っ最中です。出発前に参加者にはツアー中に雨が降ることを前提とした、防水防寒の準備をしていただきました。
最初にオルドバイ渓谷を訪問。ここは人類化石が2種も発見された歴史的名所です。荒涼とした発掘現場を眺めながら、200万年前の猿人や旧人の生活を想像します。2019年に改装された新しい博物館もあり、骨格標本を比較しながら人類進化の継承を考察しました。
そして、セレンゲティ国立公園へ入っていきます。地平線の大地をひたすら真っすぐ走る道中、ヌーの大群やライオン、チーターにも遭遇し、さっそくサファリ気分は最高潮です。
セレンゲティ滞在中は、国立公園で働くレンジャーに講義をしていただきました。日本の四国と同じくらいの面積があるセレンゲティの運営管理の大変さや、密猟問題への取り組みなど興味深いお話を伺うことができました。
サファリ中盤は、ンゴロンゴロ・コンサベーションエリアへ移動。クレーターの縁は標高2300メートルと高く、車外は霧に包まれます。いよいよクレーターの中へ入っていくと霧が晴れ、眼下には美しい緑が一面に広がります。ちょうどこの時期はキク科の黄色や紫色の草花が咲き乱れ、「いったい自分は何処にいるのだろう」と混乱してしまうほど、草原の景色がカラフルでした。これこそが、雨季の魅力なのだろうと思
います。
私は色々な動物保護区を訪問していますが、このクレーターの中の動物たちは本当にのんびりしている印象を受けます。人も恐れないのか、車道からかなり近くで観察できるのも魅力です。本当は弱肉強食の厳しい世界があるのでしょうが、ライオンたちでさえのんびりしているように見えました。何処にカメラを向けても美しく、頭の中に「楽園」という言葉が浮かんできます。
2日間クレーターの中でおこなったサファリでは、雨季には遭遇率が高くなるという数少ないクロサイや、めずらしいネコ科のカラカルの食事シーンを観察することも出来ました。
ンゴロンゴロでは、ハイエナの調査研究をおこなっている施設を訪れ、研究者にインタビューをしました。30年近く生態調査をおこない、クレーターに生息する400頭ものハイエナを個体識別しているそうです。嫌われ者のイメージのあるハイエナですが、感染病の蔓延を防いだり、草食動物の個体数をコントロールしたりする、生態系の中で重要な役割を果たしていることを教わりました。参加者からもたくさんの質問があり、興味は尽きません。
また、ライフルを持ったレンジャーと共にクレーターの縁を歩くウォーキングサファリにも参加しました。ヌーなどの野生動物たちがクレーターへ出入りするという森の中のケモノ道を歩きます。ここは密猟者が罠を仕掛ける場所でもあるそうで、緊張感もでます。道中、レンジャーからマサイ族の薬草の話などを聞きました。霧の森の中でこちらをじっと見つめるキリンのシルエットも印象的でした。
ンゴロンゴロからの帰り道では、バナナで生計を立てている小さな村を訪問しました。村の観光協会が主催するツアーに参加し、市場で珍しい赤いバナナを食べたり、バナナ畑で栽培方法を学び、チャガ族の女性たちが作る伝統的なバナナビール(ンベゲ)を試飲したりしました。最後は、村のママたちが作ってくれた地元料理を振舞ってもらいました。タンザニア名物のピラウ(炊き込みご飯)、湖の小魚を使った炒め料理、キャッサバのフライなど、どの料理も美味しくて、皆で感心しながら舌鼓をうちました。
今回のツアーでの経験は語りつくせません。やはり北部タンザニアには観光客を魅了する要素がいくつも詰まっていることを実感しました。特に今回はガイドパートナーの大森憲治が、タンザニアでのコーディネイターとしての経験とコネクションを活かし、普通のツアーでは会えない人や、行けない場所もアレンジしてくれたので、一味も二味も違うサファリが出来たと思っています。
雨季のサバンナは天候のリスクはありますが、他の観光客が少なくロッジはのんびりできますし、何よりも晴れたときのサバンナの美しさは、訪れた者しか得られない最高の思い出になるでしょう。
是非、来年も第二弾を募集し、新しいアレンジで参加者を迎えたいと思います。