3月のこと、1通のメールが届いた。件名には『入社を希望します』と記されている。日本に住む台湾人の男性からだった。「御社の業務に大変関心があるので、ぜひ一度会社を訪れたい」。
それから2週間ほどして、長身の若い台湾人男性が訪ねてきた。A君28歳。彼は、流ちょうな日本語で話し始めた。「大学時代、中国語に訳された沢木耕太郎さんの『深夜特急』に出会い、大いに感化され、世界一周の旅に出ようと誓いました。学生時代には何度か東アフリカでボランティアを経験し、アフリカの魅力にはまり、その勢いで卒業後、台湾から沢木さんが旅した国々をなぞるように世界一周の旅に出ました」。その旅の途中、アフリカ縦断のバス旅で知り合った日本人女性と結婚し、現在は都内のレストランでアルバイトをしているという。
「社長は沢木耕太郎さんを知っていますか? 台湾の若者には沢木ファンがたくさんいます。若者はあのように自由な旅をしなくてはいけません。今まで台湾にはそのような旅行文化がありませんでした」。台湾にはヨーロッパやアメリカ専門の旅行会社はたくさんあるが、アフリカ専門はないという。「自分は道祖神でアフリカ旅行の勉強をして、いずれ台湾に戻り、道祖神のようなアフリカ専門の旅行会社をつくりたい。そして台湾の若者に、もっとアフリカの事を知ってもらいたい」。そんな思いを熱く語ってくれた。
今号は創立40周年記念号、沢木耕太郎氏に改めて寄稿していただいた。やはり嬉しい。私も沢木ファンの一人なのだ。『深夜特急』が93年にJTB紀行文学大賞を受賞し、帝国ホテルでの受賞式に知人の縁で出席させていただいた。その際、自分も同じような時代に、同じような行程でユーラシア大陸を旅したことなど、沢木さんと親しく話すことができた。年下の自分の話を、短い時間ながら丁寧に聞いてくださった。学生時代から読み耽ってきたルポルタージュやドキュメンタリーなどから感じ取れる、まじめで誠実な人柄がそのまま伝わってきて、思い出に残る楽しい会話となった。
冒頭の熊沢との対談にある通り、道祖神は、自分たちが好きなアフリカを自分たちで旅したい。そんな思いで熊澤が40年前に立ち上げた会社だ。だから、「アフリカの旅を作りたい」といった若者が弊社の扉を叩いてくれるのは、大変嬉しい。さて、A君、どうしようか?!