ケニアの人たちはお洒落に余念がない。抜けるような青空の下、真紅の布を身に纏ったマサイの人々、アートのレベルまで昇華したビーズアクセサリーを身に纏うサンブルの人々。そういったエスニックな魅力の人々だけでなく、東京の街と変わらないようなビジネスライフを送るナイロビの人々も、細身のスーツに身を包み、ピカピカの革靴で街を闊歩する。夜になれば、拘りのファッションに身を包んだ若者たちで溢れかえる。人々はみな決して楽な暮らしばかりではないだろうが、日々のささやかな楽しみを満喫している。
ナイロビ・布屋街
ナイロビの市内中心部、ダウンタウンの一角に「ナイロビ・テキスタイル・センター」と呼ばれる雑居ビルがある。築何十年かは分からないが、建て増しにつぐ建て増しで、現在も成長中。全フロアの全てに小さな布屋と仕立屋がひしめき合っていて、その数は250店を超える。多くは2~3畳くらいの大きさで、扱う布の種類に拘りがあったり、仕立屋も現代風の服が得意な店から、伝統衣装が得意な店など千差万別。問屋街にもなっているので、朝から晩まで地元の人たちで賑わっている。好きな人には堪らない場所なのだが、1時間も居ると目がチカチカ、頭がクラクラしてくる。
品揃えは、さすがに東アフリカの大都市ナイロビ。アフリカ大陸の全土から、様々な布地が集まる。東アフリカのカンガ布、ナイジェリアや西アフリカでよく使われるキテンゲやパーニュといったワックスプリントもの、バゼンと呼ばれる糊の効いた光沢の布、ガーナのケンテ生地、マリ共和国の泥染め・藍染め、コンゴで見られるラフィアで織られたクバ王国の草ビロード布(さすがに摸造ですが)まで見つけたときはたまげた。ここに来て誰かに聞いてみれば、きっとアフリカの布で見つからないものはないと思う。
私も、カラフルなアフリカの服に憧れて、気に入った布でシャツなど仕立ててもらったりするものの、悲しいかな、薄い顔立ちと貧弱な身体つきではどうにも似合わない。街を歩いてみて、ガラスに映った自分を見ると、何かの罰ゲームでしょうか?と思うような見苦しさだ。通りすがりの人に「ルッキン!グッド!」なんて誉められても、そのまま日本まで飛んで帰りたくなる。アフリカンなお洒落は、あまりにもレベルが高過ぎるが、それでも何故か惹かれてしまい、たまに時間を見つけては布漁りに行ってしまう。
仕立屋
アフリカ諸国では、カラフルな布地を仕立てて着るのが今でも主流だ。ケニアでも田舎に行くと今でもそういう伝統服を着る人が多い。サンダル履きの農家のお母さんが、農作業に出るのに、カンガ布を頭と腰に巻いているだけでも絵になる。そんな風景でも、よく見るとサンダルと腰巻の布地の色を秘かに合わせていたりと、日々の暮らしの中の、ささやかな拘りが垣間見える。
残念ながら、近代化の進むナイロビでは、そういった伝統服に身を包む人は年々少なくなっている。それでも、この街にはまだ『服を仕立てる/直す』という文化が残っている。体型が変われば裾を詰める、端切れ布をアレンジして付け足す。着なくなった服は裁断してパーツを組み換え、布地を組み込んでリフォームする。全国どこに行っても同じファッションブランドの服が手に入る昨今の日本では、なかなか目にすることのできない光景だ。
そんな文化の担い手が、畳1畳分あればどこでも仕事ができてしまう「仕立屋」さんたちだ。メジャーでお客さんの寸法を測ると、型紙なぞ使うことなく、いきなり布地に鋏を入れる。足踏みミシンがカタカタと音を立てれば、あれよあれよという間に服ができあがっていく様は、本当に魔法使いのようだ。そんな名もなき市井のアーティストたちが踏むミシンから、今日もナイロビの流行が生み出されていく。
生野