今回、写真でご紹介するこの扉は、おそらく20世紀半ば頃の制作である。この扉のモチーフにはヨルバ族の重要なメッセージが表現されている。パネルの左側面と中央下から2番目に見られる人間の目を突いている鳥を見ていただきたい。この鳥は神々の神聖な使者としてのハゲワシである。かつて、ヨルバ族の儀礼では神と人間のコミュニケーションの手段として人間が生贄として捧げられてきた。19世紀以前には鉄の神「オグン」を讃える祭りや新しい王の就任式などの最も重要な儀礼において、人間は神に捧げる最高の生贄であった。この写真の扉ではハゲワシが人間の目を突いているが、これは神がこの生贄を喜んで受け入れたという意味であり、儀礼の成功を表している。

ヨルバの扉(H183cm×W61cm)

ハゲワシが生贄の人間の目を突いている

この扉以外にもアフリカには表面にユニークなデザインが施された扉がたくさんある。マリのドゴン族やナイジェリアのヌペ族などの戸外で用いられる扉のなかには、幾何学模様がモダンアートのように描かれている芸術的なものがある。風雨に晒されて使い込まれたその独特な味わいは現代空間を飾るオブジェとして人気が高い。
また一方で、室内に使われる扉には具象的な造形が施されていることが多い。今回取り上げたヨルバ族の扉は室内で使われる具象的なデザインを代表するひとつである。もともとヨルバ族の祖先は紀元前2~3世紀のノック時代まで遡り、既にその時代の塑像において世界的レベルの洗練された作品を創っていた。その後、12世紀頃から17世紀頃まで繁栄を謳歌するイフェ、ベニン時代になると、その美術的な技術や質は更に向上し、アフリカにおけるルネッサンスと呼ばれるほどの完成度に達した。
現存するイフェやベニンの彫像はほとんどブロンズ作品であるが、同時代には数多くの優れた木彫作品も存在したであろう。アフリカの厳しい気象条件と保管の悪さによりこの時代の木彫作品は現存しないが、ブロンズ作品に匹敵する多くの秀作が創られていたことは間違いない。現存する木彫作品は19世紀位のものから残っているが、それらの仮面や神像から卓越した完成度を感じることができる。19世紀の後半から20世紀の頃は、腕のある造形職人たちは宮廷のお抱え職人となり優遇されていたので、優れた職人の工房には腕を磨こうとする若い職人たちが弟子入りして技術は練磨され発展していった。
ヨルバ族 母子像(H56cm)

ノック・テラコッタ頭像(H27cm)

写真提供/小川 弘さん

小川 弘さん
1977年、(株)東京かんかん設立。アフリカの美術品を中心に、アフリカ・インド・東南アジアの雑貨、テキスタイルなどを取り扱っている。著書にアフリカ美術の専門書「アフリカのかたち」。公式ウェブサイト http://www.kankan.co.jp/
道祖神

Share
Published by
道祖神