前回アフリカに行ったのはほんの6か月前だった。もう35年以上もアフリカに出かけているが、最近は古い美術作品などを見つけることが全く期待できなくなった。収穫も少ないので、出かけるのもしばらくインターバルを置いた方がいいのではと感じているのだが、何かに追い立てられるようにアフリカに足が向かってしまう。
西アフリカの多くの国々の政情はとても安定しているとは言えず、情勢は常に変わりやすい。平和そのもので人々はとても気さく、いつでも車で移動できたマリ共和国は既に2年間も国情が安定していない。そんな中でも西アフリカの人々は、少ない可能性を何とか生かそうと一生懸命生きている。やっと少しずつ観光客が訪れるようになったコートジボアールの首都アビジャンのマーケットには品物が増えてきて、東のコンゴ民主共和国やカメルーンの商品も並ぶようになってきた。古いアフリカ美術を見つけ出す可能性が難しくなった最今、私の関心はもっぱら現代の創作作品にある。
今回の面白い発見は、アフリカの太った女と男達を風刺的に表現した人形だ。これは伝統的に作り続けられているコロン人形の延長線上の作品といえる。アフリカのおばさんやおやじの中には極端に太った人が多い。市場で物売りしているおばさんにもビックリするほど体格の良い人がたくさんいる。以前からそれらの人を見るたびにコロンビア人の画家、フェルナンド・ボテロの作品を思い起こしていた。そしてこれは作品になるなといつも感じていた。写真の被写体にも面白いし、造形作品としても面白いのではと思っていた。今回の旅で、そんなイメージに類似する人形を見つけたのである。これこそ今のアフリカの象徴だ。アフリカの日常の風景である。太ったおばさんの背中には幼い赤子が負ぶさっている。今風の派手なシャツは今にもはちきれんばかりだ。
西アフリカでは植民地時代から、その時代の風俗を表わした人形を作ることが盛んであった。帽子をかぶった統治者のフランス人の顔はいつもピンクに塗られて表現される。アフリカ人の兵隊、警察官、カメラマン、フットボールの選手、コック、若い女の子、裸の女、ダンサーなどあらゆる人形が作られ、その時代の風物を表わしていてとても興味深い。人形の意味合いは部族によって違い、たとえば、宗教上の儀礼時の供え物、魔除け、日常を加護するお守りであったりする。時代の風物を表わす造形的な人形は、ある時代を反映するアート作品ともいえるだろう。ファットウーマンは21世紀のアフリカを生き生きと語っている。
写真提供/小川 弘さん
小川 弘さん 1977年、(株)東京かんかん設立。アフリカの美術品を中心に、アフリカ・インド・東南アジアの雑貨、テキスタイルなどを取り扱っている。著書にアフリカ美術の専門書「アフリカのかたち」。公式ウェブサイト http://www.kankan.co.jp/