アフリカには西から東にわたって様々な形の枕がある。その歴史は古代エジプトに遡るといわれている。今回はその一部、東アフリカの枕を取り上げてみたい。
エチオピアやケニアなど東アフリカの人々は牛を飼って暮らしている。遊牧は男の仕事で、遊牧に出かけられるようになると、もう一人前の男性だ。エチオピアのカロ族やポコト族などの男たちは頭部に泥を固めて作った帽子を被り、その泥に青や赤、黄色などの染料を混ぜて色を付け、羽飾りを付ける。これらは年齢や社会的地位、さらには敵や動物を倒した時の勇気の象徴で、枕はその名誉ある大切な帽子を崩さないためでもある。それぞれの部族が独自のデザインを持ち、長年大切に使われているのでとても木味が良い。
①のカラ族の枕は均整のとれた美しい形でエチオピアの枕を代表するものである。②のカファ族の枕はアジスアベバの骨董屋でもっとも多く見かけるもので、シンプルな形が美しい。手に入りやすく安価でもあるが、これもエチオピアの枕の代表である。近隣のシダモ族(③)なども同じであるが、枕はたっぷりと油を含んでいて表面はしっとりと光沢がある。これは男たちが頭髪の栄養剤として髪にバターを塗っているためで、それが枕にも浸み込むらしい。部族によって浸み込み具合は違うが、ほとんどの枕は油分の艶がある。きれいに手入れをしていればいつも光沢のある枕だが、2~3か月も放置しておくとバターにカビが生えて表面が真っ白くなるので困りものである。④のケニアのブラナ族の枕は自然の木の枝を上手く利用して見事である。⑤のソマリ族の枕は美しいデザインと希少性で入手困難なため値段も高い。
このほか西アフリカでは、コートジボアールのバウレ族やダン族(⑥)、マリのドゴン族、ブルキナファソのモシ族、ロビ族などにも限りなく面白い造形がある。さらに南部アフリカでは、ジンバブエのショナ族(⑦)にも優れたデザインがある。
このようにアフリカには仮面や神像だけでなく、枕ひとつを取り上げても研究やコレクションに十分見合う興味深い対象があり、エチオピアやケニアに代表される東アフリカの枕だけでも一冊の本が書けるほどである。
写真提供/小川 弘さん
小川 弘さん 1977年、(株)東京かんかん設立。アフリカの美術品を中心に、アフリカ・インド・東南アジアの雑貨、テキスタイルなどを取り扱っている。著書にアフリカ美術の専門書「アフリカのかたち」。公式ウェブサイト http://www.kankan.co.jp/