ここに紹介する3つの箱は、長年大切に使われてきたクバ族の化粧箱や貴重品入れである。
1番目の三日月型の箱は女性の化粧箱で、針や宝石や貴重品を納めるほかに、Camwoodという木の皮から作られる通称“トゥクラ”と呼ばれる赤い粉を入れていた。この赤い粉はクバの人にとって西欧の金にも匹敵する価値を持つ貴重なものであった。トゥクラは主としてダンスなどのときに顔や体に付ける文様を描いたり、髪に塗ったりして使われたが、装飾用にも利用され、この紫がかった赤い粉は金属容器、人物像、武器、神具などにも多く塗られている。それ以外にも、妊娠した女性、出産した女性、新生児への祝福、病人への慰謝、兵士への褒美などとして、人々に名誉を与え美しく飾るためにも使われた。通常この粉は特別な木か土製の皿の上でヤシ油から抽出されたオイルと混ぜ合わせて使われる。さらにトゥクラのもう一つ重要な点は、この粉をきつく固め陽に当てるなどしてBangotolと呼ばれるクバ族特有の儀礼用貨幣を作ることである。四角い形や幾何学文で作られたBangotolは威信のある贈り物として、結婚式や葬式の時に重要な人々に配られた。箱全体の表面には、クバ族独特の草ビロードやンチャックなどに使われているのと同じ文様が施されている。写真の、顔のデザインが施されている箱は特別なデザインで儀礼などにも使われる。この顔の部分には通常所有者の特徴を表わす独自のデザインが表現される。
2番目の大きな丸い筒型の箱は、ラフィア椰子やツルなどで作られたバスケットが原型となっていて、蓋の部分も籠のデザインと同じである。箱はバスケットを原型としながら木製の丈夫な箱に仕立て上げたものである。箱全体はクバの人々が好んで使う結び目文様で覆われていて、上蓋は開くようになっている。上に施された亀のデザインは害虫除けのおまじないである。この大きな筒型の箱には化粧道具の他いろいろな貴金属や貴重なものなども収められていたらしい。ススや手磨れなどで黒光りするこの重厚な味わいは、人々が長い間大切に使ってきた証でもあるだろう。
3番目の楕円形の箱も木製であるが、やはり原型は椰子の枝などから作られた籠である。蓋部分の取っ手は木の枝の形そのままで、原型になっている籠の姿を生き生きと伝えている。
200~300年も使われたこれら漆黒の木箱は、どっしりした重々しい風格を示しながら年月を経たその長い歴史を静かに語っているようだ。
写真提供/小川 弘さん
小川 弘さん 1977年、(株)東京かんかん設立。アフリカの美術品を中心に、アフリカ・インド・東南アジアの雑貨、テキスタイルなどを取り扱っている。著書にアフリカ美術の専門書「アフリカのかたち」。公式ウェブサイト http://www.kankan.co.jp/