Aさんは、市役所に勤める公務員で、50歳の独身女性。小柄で色白で華奢な体型は、30台後半にしか見えない。アフリカ好きで何度も弊社をご利用いただいている、昔からのお客様だ。しかし、僕自身は直接担当したことはなく、親しく話をしたこともなかった。
前号でザイール(現コンゴ民主共和国)の旅の話を書いた。まったく予定など立たない非常にハードで魅力的な旅の話だ。5月になり、弊社のイベントで彼女に会った際、「実は私も20年以上前に、ザイール川をキサンガニからキンシャサまで例の船に乗って越えたことがあるんですよ。へへへ…。キサンガニでは貧乏旅行者の溜まり場だったオリンピアホテルに泊まってました」。ええぇ、とのけ反った!驚いた。イヤハヤ人は見かけに拠らないものだ。懐かしさも手伝ってあれやこれや当時の旅の話で盛り上がった。
そんな話の中で、Aさんは「実は若い頃からの夢は、タンザニアにある“ムエカ野生動物管理大学”に留学して、一年間、野生動物とその管理について学ぶことだった」というのだ。ムエカとはモシ郊外にある、レンジャーなどを養成する専門校で50年以上の歴史がある名門校だ。「でも、若者に混ざってハードなキャンプ生活や英語の授業についていけるだろうか?」。そして、安定していると言われる公務員を辞めること、無事卒業しても就職先はどうなるのか?高齢に近づいている両親のことなど、当然のことながら様々なジレンマがある。時間をかけてそんな話をした。
2カ月ほど後、Aさんが出した結論は、7月には退職しタンザニアへ行き、ムエカで一年間学ぶ、と言うものだった。「ずいぶんと悩んだし、反対も多かったけど、まだ両親は元気だし、自分の体力を考えると、たぶん今が夢を叶える最後のチャンスだと思う。やらずに後悔するより、とにかくやってみて、それで後悔するほうがいい」。
この号が出る頃には、アフリカ人の若い学生に混ざって、必死に授業を受けている彼女がいるはずだ。