2012年のゴールデンウィーク、アフリカ大陸東部に位置する小国、ルワンダへと行ってきました。旅の目的はルワンダ・ウガンダ・コンゴ民主共和国と3ヶ国にまたがるヴィルンガ山地です。標高4,507mのカリシンビ山を最高峰とする、この火山帯の麓の密林には、なかなか会う事の出来ない希少な「森の民」が住んでいます。彼らの姿を実際に見た事がある人は非常に少ないのですが、彼らの名前はとても有名です。その彼らとは、「マウンテン・ゴリラ」です。
「なーんだ、ゴリラか。別に珍しくないよ。動物園にもいるし…」と思われたアナタ。実はゴリラが生物学的に確認されたのは19世紀半ば…、150年くらい前までは、人間にとっては未知の生き物だったわけです。そして2012年現在、世界中では約760体のゴリラが飼育されているそうですが、実は「マウンテン・ゴリラ」は1頭もいません。ゴリラは大きく分けると4種類に分類する事が出来ますが、飼育下にあるゴリラは全て残りの3種類のいずれか、特に殆どがニシローランド・ゴリラと呼ばれる種なのです。昔は世界の幾つかの動物園では合計で12体飼育されていたそうですが、1977年にオクラホマシティ動物園で死亡したSumaliliという個体を最後に、飼育下のマウンテン・ゴリラは居なくなってしまいました。
…と言う事で、2012年現在、マウンテン・ゴリラに会うためには、遠くアフリカの山まで行かなければならないんですね。
そして、今回の目的地はルワンダ。大阪⇒ドーハ(中東カタール)⇒ナイロビ(ケニア)⇒と、ずいぶん時間をかけて、ようやく首都のキガリに辿り着いたのは真夜中。翌日には早速、目的地のヴィルンガ山地へと車を走らせます。“千の丘の国”とも呼ばれる高原の国ルワンダ、平均標高が1,600mと高く、呼び名の通り、山間部をくねくねと走っていると、霧の向こうに目的地のヴィルンガ山地の死火山が姿を現しました。
あの山のどこかに「マウンテン・ゴリラ」が…!
まずは、山のふもとにあるロッジにチェックイン。明日のゴリラ・トレッキングに備えます。既に標高は2,000mを超えています。陽が落ちるとずいぶん冷え込みますが、ロッジの部屋には暖炉があり、夕食後にスタッフが薪を火にくべてくれます。翌日は早朝の出発なので、早く寝なければいけませんが、パチパチと音を立てて燃える炎の側で暖まっていると、ついうっとりとして夜更かしをしてしまいます。
ロッジでの食事は、バイキング形式。山登りに備えてモリモリと食べます。
料理は基本的にオーソドックスな洋食ですが、毎回デザートが変わっていたり、ローカルフードのコーナーもあったりして、趣向を凝らしてくれているのが嬉しい。レストランにも、そこかしこにゴリラの装飾があるので、否が応でも気持ちが高まります。
明日への景気づけに一杯だけ。地元の味、PRIMUSビールで乾杯。
いよいよトレッキング当日。まずはこの山域全体を管理している国立公園事務所に行き、ガイドさん達との顔合わせです。事務所の入り口では、大きなシルバーバック像が待ち構えています。マウンテン・ゴリラ達に会いに行くトレッキングは道案内のガイドや、万が一の為の護衛レンジャー、荷物を持ってくれるポーター、まだ暗いうちから山に入ってゴリラを追跡してくれているトラッカーなど、多くの人々のサポートがあって初めて出来ます。それだけ、野生のゴリラの生活にお邪魔をするのは慎重を期さなければならないという事でもあります。
手続きを済ますと、迫力ある民俗舞踊のデモンストレーションで送りだしてくれます。これは年に1度行われているゴリラの命名式「ネーミング・セレモニー」でも踊り継がれているものだそうです。
さて、いよいよトレッキング開始です。
霧雨の中、森の中へと足を踏み入れて行きます。まずは山の入口、平坦な森林地帯を歩きます。時々、ゴリラの食べ残しや排泄物も見かけます。こんな麓まで山を下りてくる事もあるんですね。
ゴリラに会いに行く道中、ガイドさんはゴリラの生態について色々と教えてくれます。教え方は実演あるのみ、ゴリラの食べる植物をバリバリと食いちぎり、ゴリラの鳴き真似も人間の声とは思えないほどリアルに。目いっぱい楽しませながらレクチャーしてくれるので、山登りの苦労も感じる暇がありませんでした。天候も良くなり、晴れ間が見えてきたところで、先に山に入っていたトラッカーと合流。もうゴリラが近くに居るそうです。荷物を置いて、身軽な格好で茂みの中に分け入っていきます。確かに、何やら強烈な刺激臭(ワキガのような…)が漂い、野生の気配を肌で感じて来ました。パキリと枝が折れる音、木々の枝葉が揺さぶられる音、何やら荒い息遣い、段々と音が近づいてきます…。
「ガサガサガサッ!!バキバキバキッッ!!!」
突然、目の前の茂みが激しい音をたてました。
その瞬間、想像していたより遥かに大きな身体のシルバーバックが、これまた想像以上の猛スピードで、まさに眼前を駆け抜けて行きました。
気配は感じていたものの、あまりにも突然に現れた巨躯に驚いて暫く立ちすくんでしまった私達でしたが、ガイドに促され、そろりそろりとシルバーバックが駆け抜けて行った後を追います。
木々が屋根のようになっている藪道のトンネルを抜け切り、やっと空が開けた平地部に出たところで、ようやくいた!いました!!今回、お邪魔するのは“HIRWA“と名付けられた家族です。
ボス(シルバーバック)の名前はMUNYINYAといいます。先ほど凄い勢いで駆け抜けて行った彼ですが、非常に物静かな佇まいで待っていてくれました。
ゴリラに出会ってからの観察時間は、きっかり1時間。
ゴリラの観察には明確なルールが決められています。これは、ゴリラ達が非常にナイーブな性格で、ストレスに弱く、あまりにも長時間接触していると体調を崩してしまうからです。
また、ゴリラと人間は病気も共有してしまう為に、風邪をひいている人は参加出来ません。ここまで来て、参加できないのは無念ですので、皆さん体調管理はいつも以上にしっかりと。
そして、ゴリラに近づける距離は7mまで。但し、このルールはゴリラの子供たちによって破られる事も多く、人間に興味しんしんの子供たちは、じーっとこちらを見つめながら、ひょこひょこと自分から近づいてくる事も多いです。
大人たちは我々の事を意識しているのかいないのか、あまり気にせず、普段通りの家族団らんの一場面を見せてくれているようです。
特に可愛らしいのは、昨年産まれたばかりの双子の赤ちゃんゴリラ。ISANGOという名が付けられた兄弟はどこに行くのも、何をするのも一緒です。
ヴィルンガ山地に住むマウンテンゴリラの頭数は、現在約480頭が確認されています。隣国ウガンダのブウィンディ国立公園と併せると、約780頭、これが世界中で現存するマウンテンゴリラの数です。映画「愛は霧の彼方に」のモデルにもなった動物学者のダイアン・フォッシー女史が、この地にゴリラの研究所を設立してから約50年間。研究者や森を守るガイドやレンジャー達の懸命な活動によって、少しずつマウンテンゴリラの数は増えています。
しかし、未だ続く密漁の問題や、山を切り開く農地の開墾、我々観光客の存在も含めて、マウンテンゴリラ達の生活を脅かす要素は、人間の存在そのものに他なりません。ですが、ゴリラ達の生活を保護して守る事が出来るのも、人間の存在なのです。
マウンテンゴリラの観察をする為の入園許可証は、たった1時間の観察で、750米ドル(!)という値段がします。ですが、私達が現地に落とすこの金額が、ゴリラ達の住む山の環境保全に使われています。
間接的ではありますが、「会いに行く事」が彼らの生活を守る事に繋がっているのではないでしょうか。是非、ご興味のある方は、まずは彼らに「会いに行って」欲しいと思います。
「ウガンダ・ルワンダ・ゴリラ・トレッキング 10日間」
ゴリラ達がいつでも気楽に眠れるような、この山がいつまでも今の姿のままでありますように。
生野