2015.05.02発 インドネシア・ネイチャー・アイランド・トリップ 8日間

ゴールデンウィークに企画している、インド、イエローストーン(北米)、インドネシアの、アフリカ以外の地域での3つのワイルドライフツアーのうちの一つ、インドネシアのツアーに添乗させていただきました。目的はカリマンタン(ボルネオ島)のオランウータンと、コモド島のコモドドラゴンという、インドネシア野生動物界のBIG2を見ることです。
インドネシアという国自体が13,000を超える島々で構成された世界最大の島国ということもあり、日本と空路で結ばれているインドネシアの各国際空港、また目的となる野生動物が生息している島々がそれぞれ離れているため、首都ジャカルタのあるジャワ島、カリマンタン島(ボルネオ)、バリ島、フローレス島、コモド島、リンチャ島と、6つの島へそれぞれ空路と海路で結んだアイランド・ホッピングの旅となりました。陸路はほぼ利用せず、各島内・周辺での移動は船。かたやリバーボート、かたや沿岸用のスローボートで、この船の船室に泊まりつつ各地を訪問することも可能なのですが、今回はロッジ・ホテルに宿泊し、日帰りの船移動を繰り返す内容となりました。

飛行機の窓から見下ろすカリマンタン島南部の森

オランウータンを見るのは、ボルネオ島のインドネシア領部分の南端にあるタンジュン・プティン国立公園。海に注ぎ、汽水域の広いクマイ川から、更に支流のセコニエル川を遡上して、森の中、川沿いに建つロッジを目指します。寝泊まりもできる快適なリバーボートでゆったりと川を進んでいくと、ニッパヤシが川沿いによく繁る汽水域から、パンダナスが繁殖する水域へと、徐々に植生も変わっていき、樹冠も高くなり、ロングテイル・マカク(カニクイザル)やテングザルを川沿いの木々に見かけるようになっていきます。オランウータンの生息域は、この川の上流に向かって右手に広がる国立公園がメインになっていますが、森の奥だけではなく、時にはパンダナスの新芽を食べるために川沿いに姿を現すこともあるようです。

こんなリバーボートで川を遡上。デッキがあり、そこから川沿いの樹上を観察したり、デッキ上のテーブルで食事もできます(本来は宿泊も)。

オランウータンの像が出迎えてくれる、タンジュン・プティン国立公園への入り口。

船のデッキから川沿いを観察。

インドネシア料理は日本でもおなじみ。味も美味しい。

ゆっくりと川を遡上していきます。

初日は拠点となるロッジへの移動と、サルや鳥の観察、ロッジまでの途中にある餌付け場への訪問、というスケジュールです。国立公園と言っても、かつてアブラヤシのプランテーションが広がっていた二次林が多く、オランウータンの食料となる実のなる樹木や、芽などが食用に適した樹木が減っており、公園内にいくつか設けた餌付け場や調査センターを設けて、森に食料が足りなくなった時期の補助や、個体数の推移、密猟された子供のオランウータンを野生に返すためのリハビリを行っています。

ロングテイル・マカク(カニクイザル)。

見事な鼻を持ったテングザルのオス。

オランウータンの餌付け場まで、森の平坦な道を歩いていきます。

偶然かつラッキーなことに、最初の餌付け場で、見事なフランジ(頬だこ-顔の両側、頬の部分にある張り出し-)を持つオスのオランウータンに遭遇。

いきなり遭遇したオスのオランウータン。

樹上から観察者を逆に観察しています。

餌付け場というと「簡単に見られる」と思ってしまいがちですが、森に食料が豊富な時は餌付け場に姿を現さないこともあり、通常は単独で行動する野生のオランウータンですので、オスを見ることができたのは非常にラッキーでした。(オスは“森の王様”でもあり、時としてアグレッシブですので、メスのように近くに寄ることはできません)

餌付け場では子連れのメスとも多く遭遇します。

しぐさも表情も、なんともキュートなオランウータンの子供。

いかにも熱帯雨林の宿泊施設といったロッジに泊まった翌日、更に川を遡上したところにある、かつてのリハビリセンターで現在は調査施設として機能しているキャンプ・リーキーを訪問しました。

公園の境界沿いにあるほぼ唯一のロッジ、リンバ・オランウータン・エコ・ロッジ。

ロッジは豊かな熱帯雨林に包まれています。

ロッジのレセプション。オランウータン関連の本や映像も見ることができます。

テラスの前は豊かな熱帯雨林です。

湿度が高く、虫も多い森ですが、部屋には蚊帳もエアコンも付いており快適。

美味しいインドネシア料理が供されるダイニング。

霊長類の研究は、ケニア生まれの人類学者ルイス・リーキー博士による、自然の生息地で観察するフィールドワーク研究の促進によって大幅に進歩しましたが、その最初期の研究を行ったのがリーキー博士が選んだ3人の女性、ジェーン・グドール(チンパンジー)、ダイアン・フォッシー(ゴリラ)、ビルーテ・ガルディカス(オランウータン)でした。タンジュン・プティンはビルーテ・ガルディカス博士のフィールドとなり、そのため研究施設にはリーキー博士の名前が付けられています。そして、なんともラッキーなことに、私たちと時を同じくしてガルディカス博士も滞在しており、直接お会いすることもできました。

支流に入ると、川の水はタンニンを多く含んだいわゆる「ブラックウォーター」に変わります。

奥に向かうにつれ、川幅はどんどん狭くなっていきます。

世界で最初に設置されたオランウータンのフィールドワーク施設、キャンプ・リーキー。

キャンプ・リーキー周辺の森の王様、貫禄あるオスのオランウータン「トム」。

ヒゲイノシシとの接近遭遇。微妙な緊張感が漂います。

知性を感じるオランウータンの哲学的なまなざし。何か深~いことを考えていそうです。

キャンプ・リーキー周辺で、キャンプを含む2カ所の餌付け場を見学し、特にキャンプの研究施設付近では、もう一頭の“森の王様”、トムと名付けられたオスのオランウータンにも出会うことができました。野生のオランウータンは、野生に近ければ近いほど、地上に降りるリスクを承知しており、ボルネオでの好敵手となる「ウンピョウ」が生息している地域では、餌付け場といっても地面に降りてきてその場で食料を食べ始めることはしません。一旦木から降りて食料となる果物等を掴み、樹上に戻って食べます。見事に木から木へと移動し、スルスルと上り下りを繰り返す様も観察できます。この餌場では、親子や若いオス、若いメスのオランウータンをじっくり観察できました。

原生林の他、かつてはアブラヤシのプランテーションだった二次林もオランウータンの生息地になっています。

ボルネオ島おなじみのウツボカズラ。マレーシア側だけでなくインドネシア側でも見ることができます。

固体によっては樹上から下りて、のんびり地上に留まって餌をもらうものも。

大概の固体は、餌を抱えてすぐに安全な樹上に戻ります。

口にくわえ、片手に持ちきれないほど餌を抱える欲張りな固体も。

名前どおりの「樹上の人」らしい行動も見られます。見事な樹上移動。

大きな固体に樹上から見下ろされると、迫力に圧倒されます。

餌場から遠く離れ、開けていない森ではこんな感じでオランウータンが見られます。

オランウータンの森に2泊した後、空路カリマンタンからジャカルタを経由してバリ島へ。バリ島で1泊した翌日、さらに国内線でコモド諸島への入り口となるフローレス島へ移動します。フローレス島での目的はもちろん地上最大のトカゲ「コモドドラゴン」。主に生息しているコモド島とリンチャ島へ、こちらは海上を船で移動して訪問します。

プロペラ機でバリ島からフローレス島のラブアン・バジョーへ。

コモドの島々への海上移動に利用する船。キャビン&キッチン付きで、こちらも宿泊可能です。

船上でコックさんが手早く調理するインドネシア料理。

コモド島を含むコモド国立公園は世界遺産にも指定されており、希少なコモドドラゴンの生息する陸上のみならず、ウミガメやイルカ、マンボウなども生息している海面下の豊かな自然でも知られており、ダイビングスポットとしても世界有数の海。

カナワ島に立ち寄って、入り江のサンゴ礁でシュノーケリング。

透明度の高い水で、船や桟橋の上から魚が眺められます。

コモドドラゴンとともに暮らしてきた漁民たちの村、リンチャ村。

漁師の伝統的な家が高床になっているのは、コモドドラゴン対策という面もあるようです。

日本の田舎にもありそうな、小魚が干された漁村の風景。

海とともに育ってきた、屈託ない、のびのびした子供たち。

コモド島周辺では、スローボートでののんびりとした海上移動を楽しみつつ、美しい海でのシュノーケリングや、数万匹のオオコウモリ(フライング・フォックス)が餌を探し求めねぐらの島を飛び立っていく圧巻の光景も堪能できます。

美しい多島海のサンセット。

日没近く、18時15分くらいになると、数十万匹のオオコウモリが食事のために飛び立っていくフライング・フォックス・アイランド。

現在生息しているコモドドラゴンは、生息地の4つの島の合計で6,000匹未満。オスの方がメスより個体数が多く、8月の繁殖期にはオス同士でメスをかけて戦う“コンバット・ダンス”を見ることもできます。いずれの島でもシーズン中はほぼ間違いなくコモドドラゴンが見られるのですが、変温動物でかつ大きな体を持つコモドドラゴンは、エネルギー効率を考えて、よほど狩猟の成功率が高くない限り捕食行動はせず、食料の匂いのする国立公園施設のキッチン周辺に集まっている様子がよく見られますが、今回のツアーでは、トレッキング中の森の中、よく日の当たる丘の上で体を温めている光景を目の当たりにすることができました。

コモド島の入り江。リアル・ジュラシック・パークへの入り口。

世界遺産コモド国立公園のゲート。ゲートは形式上で、海上の部分も含まれています。

観光客に近寄ってくるコモドドラゴンを押さえつけておくためのスティック。レンジャーが持ち歩きます。

バリ島の東、ウォーレス線を越えると、気候は熱帯からサバンナ気候に変わり、コモド島もサバンナ気候帯に含まれます。

動かず、じっとしているためパッとみると岩か何かのように見えるコモドドラゴン。

身体が温まるまで、無駄なエネルギーを使わずジッとしています。

迫力十分の「現代の恐竜」

お客さんのカメラを持って限界まで近づいて接写するガイド氏。

赤いパイプサンゴのかけらが砂浜に打ち上げられ、ピンクに見える通称「ピンクビーチ」。ここでもシュノーケリングが楽しめます。

ピンク色の元になるパイプサンゴ。

オスのコモドドラゴンは最大で体長3m以上、体重は100kgを超えますが、この時見た個体も、そのくらいの大きさはあったのではないかと思います。唾液中のバクテリア(なんと60種類!)を使って噛みついた動物(バッファローやイノシシなど)に敗血症を起こさせて弱らせ、捕食すると考えられていましたが、最近の研究でバクテリアとは別の毒も持っていることが知られるようになりました。いずれにしても噛まれると大変なことになるため、レンジャーが二股になった杖をもって同行し、近づいてもせいぜい3m程度の距離で観察・写真撮影を行います。2つの島で成獣・子供含め、合計14頭のコモドドラゴンを見ることができました。共食いをするため、孵化してすぐの個体は身体が大きくなるまで樹上で生活するのですが、その樹上で生活する個体を見られたのはラッキーでした。

リンチャ島の国立公園事務所への入り口。

リンチャ島では、多少アップダウンのあるコースを歩いてドラゴン探し。

公園事務所のキッチン付近には、常に数匹のコモドドラゴンが固まっているのが見られます。

皮膚の質感、頭部の大きさ、そして爪。迫力満点。

歩く姿もパワフルです。

眼はほとんど見えず、舌を使って外気温と匂いを感じることができます。

成獣に捕食される危険があるため、地上に下りた幼獣は素早く動きます。

刺激されると、のどの部分を太く広げ「シューッ」っと威嚇音を出します。

観光客が最大限近寄れる距離はこんなところ。約3m程度でしょうか?

幼獣は、成獣に捕食されるのを防ぐため、孵化してすぐ木に登り、ある程度大きくなるまで樹上で生活します。

インドネシアと言えば、ジャワ島の仏教遺跡やバリ島があまりにも有名ですが、あえてそこに注目しないことによって、他の島々の良さのようなものも見ることができた旅でした。コモド諸島の漁村の人々の暮らしぶり、歴史的にクリスチャン(カトリック)の多いフローレス島、勇猛果敢な森の狩人として名をはせたダヤクの人々が暮らすカリマンタンなど、島々それぞれに特色があり、人々も明るく親切で、その意味でも楽しめたインドネシアの島々の旅でした。何より、食事が日本人の味覚に合います。これは旅する上でやはり重要ですね。

スラウェシ島発祥の伝統木造帆船「ピニシ」が今でも活躍しているフローレスの海。

ラブアン・バジョーの魚市場では、ボラ、サワラ、タイなど、日本でもおなじみの魚も多く売られています。

干し魚の類はとにかく豊富。良い出汁がとれそうです。

普段から激しい潮流で洗われているコモド諸島の海は、11月~2月の雨期には大荒れとなり、船の航行が難しくなります。ですので、このインドネシア野生動物界の2大巨頭を一回の旅で見ることができるのは、上記を除いた約8か月間となります。意外に長い期間、この内容の旅はできますので、ゴールデンウィークに限らずまたこのツアーを企画する予定です。
東南アジアの野生動物を見る旅は、アフリカとはまた違った体験ができ、異なる自然や文化に触れることもできますので、まだ足を運んでいない方は、是非訪問してみてください。
羽鳥

道祖神