人間の土地(アントワーヌ・ド・サン=テグジュぺリ著)

人間の土地(アントワーヌ・ド・サン=テグジュぺリ著)

アントワーヌ・ド・サン=テグジュぺリ著(新潮文庫)
「アフリカン書籍」と言ってしまうと、ちょっと違うかもしれませんが、私のお気に入りの一冊です。 初読から23年間、添乗業務、プライベート問わず、行き先も問わず、旅に出るときには必ず持って行き、ボロボロになったら買い替えを繰り返して、既に数十冊読み継いできた1冊です。

飛行機の窓外を眺めながら読むと、心の奥深くまで染みわたってきます。砂漠に張ったテントの中、星の瞬く静かな夜もまた、この本を読む最高のシチュエーションです。サン=テグジュペリというと『星の王子様』が有名で、ものすごい数のファンがいますが、あちらはちょっと説教臭くて好きになれませんでした(ファンの方ごめんなさい!)
『人間の土地』はフィクションではなく、彼が実際に体験した飛行機や砂漠にまつわる様々な体験を(序文を寄稿したアンドレ・ジッドが言うように)文章の花束のようにまとめた、今でいうエッセーのような本ですが、実体験だけにズシン!とくるものがあります。作家として作品をものにしながら、第2次大戦時に地中海上空で消息を絶つまでパイロットとして空を飛び続けた彼の若き日の冒険飛行、フランスからセネガルのダカールへ、そして南米へ郵便物を空路運ぶこと自体が命がけの冒険だった頃のエピソードが、ちりばめられています。
スペイン領北アフリカのキャップ・ジュビー(現モロッコのタルファヤ)にあった飛行場の責任者として、飛行機の誘導、地元の遊牧民や土地を借りているスペインの軍人との折衝等をこなしていた時のエピソードや、リビア砂漠に不時着して渇きに苦しみ、3日後にベドウィンに救出されたエピソードなど、畏怖すべき、だけど美しい存在として砂漠を描いた『砂漠で』『砂漠のまん中で』の2章は特に、砂漠への憧れを掻き立ててくれます。
私はこの本を読んで、どうしても砂漠に行ってみたくなり、初めてサハラに足を踏み入れました。今でも特に理由がなければ、個人的な旅の行き先には砂漠を選びます。それほど砂漠に魅了されてしまったのは全てこの本のおかげ、同じく砂漠に魅了されたサン=テグジュペリのおかげだと思っています。
サン=テグジュペリの書いた原作も素晴らしいと思うのですが、この新潮文庫版の堀口大学氏の翻訳がその素晴らしさを更に引き立てていると思います。フランス語の原文と英語版、日本語版を読み比べてみたのですが、文章の奥行きが随分と違うように感じます。日本語の言い回しの豊富さ、リズム感、文章の間合いから広がるようなイメージは、堀口氏の訳のおかげかもしれません。ただ、古い言い回し(私はそれも味だと思っているのですが)が苦手な方は、みすず書房から出されている、山崎庸一郎氏訳の「人間の大地」(原書は同じです)の方をお勧めします。
新潮文庫の現在の版の表紙は、宮崎駿氏のイラストになり、こちらもなかなか良い感じです。宮崎さんもサン=テグジュペリにひとかどならぬ愛着をお持ちで、この「人間の土地」を最も影響を受けた本のひとつにあげておられました。
ぜひ、ご一読ください!
by 羽鳥