エチオピアの首都アディスアベバの下町シロメダ地区に行くと、エチオピアの人が男女を問わずに好んで身につけるショールを販売している一角がある。白い厚手のガーゼ生地のような手触りの布は、男性用がガビ、女性用がナタラと呼ばれ、エチオピア人の正装には欠かせないものだ。その街角を歩いていると、完成品のショールだけではなく、袋詰めにされた収穫されたばかりの木綿や、紡いで糸にしたもの等、布になる前の素材もまたさまざまな形で売られているのを目にすることができる。
道路の一角を占拠して、数十メートルもの長さに延ばした糸を巻き直していたり、糸車でぐるぐるやっている工程も見学できる。ギッコンバッタンと音がする方角をたどっていくと、土壁の建物の内部で機織り機を操っている工員の姿がある。
狭い室内にはそれこそ足の踏み場もないほど機織り機が置かれ、若い男性たちが突然の闖入者(つまり僕のこと)の存在に照れ笑いを浮かべながら、黙々とギッコンバッタンとやっている。東南アジアなどでよく見かける水平型の機織り機だが、アジアのものと異なる点が二つほどある。ひとつは地面に穴を掘ってそこで足の操作をしている点。だから全体的に機織り機の高さは低くなっている。もうひとつは織り手が全員、男性である点。
織物というのは人類最古の工芸品のひとつに挙げてもよいだろう。古代エジプトの遺物である絵画にも機織りは描かれているから、少なくともそれ以前から存在したことになる。となると、やはりアフリカ大陸が発祥の地といっても差し支えないかもしれない。
僕は東南アジア各地や中南米で実際に生活に使われる布を織る人たちに会って来たのだが、織り手はその全員が女性であった。しかしここエチオピアでは全員が男性である。シロメダ地区で機織りに従事している人の大半は、エチオピア南部のアルバミンチ近郊に住むドルゼ人だ。僕は彼らの村やその近くのコンソという民族を訪れたことがあるが、やはり現地でも織り手は全員が男性であった。聞くところによると西アフリカで織られている布もまた織り手は男性らしい。アフリカではどうして男性が織るのか、僕はまだその理由がわからないでいる。
写真・文 船尾 修さん
船尾修さん 1960年神戸生まれ。写真家。1984年に初めてアフリカを訪れて以来、多様な民族や文化に魅せられ放浪旅行を繰り返し、いつのまにか写真家となる。[地球と人間の関係性]をテーマに作品を発表し続けている。第9回さがみはら写真新人賞受賞。第25回林忠彦賞受賞。第16回さがみはら写真賞受賞。著書に「アフリカ 豊穣と混沌の大陸」「循環と共存の森から~狩猟採集民ムブティ・ピグミーの知恵」「世界のともだち⑭南アフリカ共和国」「カミサマホトケサマ」「フィリピン残留日本人」など多数。元大分県立芸術文化短大非常勤講師。大分県杵築市在住。 公式ウェブサイト http://www.funaoosamu.com/