アフリカの布の中でもその鮮やかさが際立っているのがアシャンティ族のケンテクロスとエウェ族のエウェクロスである。この布は肩から足首まで体を包む衣装として用いられる。西アフリカ特有の10cm位の細幅の布を縫い合わせて一枚の大きな布にしたもので、そこには幾何学文様や動物、人などのさまざまな文様が織りこまれている。素材は、綿や絹、また最近ではレーヨンも使われている。絹の布は王様やチーフだけが着るものであるがその絹は日本からも輸入されたという。細幅の布の織りは、中央アジアのステップからコーカサス地方、アフリカ北西部に至る地域で2000年以上の歴史を持つ。イスラム教の勢力拡大とともに、サハラ砂漠を越えて西アフリカに伝わったという。西アフリカのほとんどの地域で、布を織るのは男性の仕事である。布を織ることはとても神聖な作業だった。職工は一日の仕事を終えると、儀式的な事をして仕事場を去った。機織りの道具で人をたたいたりすると悪病をもたらすと信じられた。また機織り機は、その持ち主が死ぬと壊され、他の人に引き渡されることはなかったという。
アシャンティ族は15世紀以前からこの地方に住みつき、交易などで繁栄、王国を形成した。金を産出したこととヨーロッパとの交易が盛んで鮮やかな染料や絹などの素材が入手できたこともあり、エウェのそれに比べて艶やかな布が多い。一般の人たちの着る藍と白の綿布とは別にして、絹を用いたり草木染めで色をつけたり、文様を複雑化して独特の発展を遂げた。アシャンティの人々の間では、使われる色や文様によってそれぞれの布に呼び方がある。布の名前は、“唐辛子”“トウモロコシの葉”など文様のデザインで呼ばれるものと、ことわざで呼ばれるものがたくさんある。アシャンティ族はことわざが豊富なのでその数は計り知れない。身分によって使える色や文様は決まっていて、エウェ族が動物や人などの具象的な文様を使うのに対してアシャンティの文様は全て幾何学文様である。エウェ族にも、日常に用いる布とエウェの言葉で“アダヌド”と呼ばれる特別の布がある。“アダヌド”はチーフや年配者が着る布で質の良い綿、または絹で織られ、複雑な文様が織り込まれる。アシャンティほどの厳しい決まりごとがないので、身分による決まった文様も見られない。こちらにもたくさんの布の名前がある。アシャンティのようには高価な鮮やかな染料が入手できなかったので、主に天然染料や、ややくすんだ色合いが使われた。しかし結果的にエウェの色合いには天然染料や落ち着いた色合いが多いので一般的な評価は高い。
写真提供/小川 弘さん
小川 弘さん 1977年、(株)東京かんかん設立。アフリカの美術品を中心に、アフリカ・インド・東南アジアの雑貨、テキスタイルなどを取り扱っている。著書にアフリカ美術の専門書「アフリカのかたち」。公式ウェブサイト http://www.kankan.co.jp/