風まかせ旅まかせ Vol.12 樺太の神様は女性が好き?

2年ほど前バイクでサハリン(樺太)を縦断した。旅は北海道稚内集合、フェリーに乗り込みサハリン、コルサコフ港(大泊)へ。州都ユジノサハリンスク(豊原)から北上し、北緯50度線を越え、最北端シュミット半島のエリザヴェト岬を目指した。天候が悪く参加者14名のうち、完走者はわずか2名のかなりハードなオフロードツーリングになった。
ご存知の通り、サハリンの北緯50度以南は戦前日本の領土で樺太と呼ばれ、各町には日本名がついていた。途中泊まったポロナスク=敷香にも旧王子製紙の工場が今も残っている。同様に当時の建造物の痕跡が随所にあり、我々もツアースタートの初日、ブズモーリエ(白裏)の海岸に残る旧白裏神社の鳥居を尋ねた。熊笹に囲まれた山の中腹にポツンと残る石造りの鳥居は、他の鳥居跡や墓と同様に、南の日本の方角、皇居に向かって建っている。
鳥居の前のわずかなスペースにブルーシートを広げ、ハムやチーズ、鱒の燻製など、昨晩ユジノサハリンスクの市場で買ってきたサハリン産の食材でピクニックランチを取った。おそらく戦前村人達もこの鳥居の前で、結婚式や村祭りなどの宴を開いたことだろう。そんなことを想像すると不思議な気持ちになった。
さあ、出発というときに、唯一の女性参加者Oさんのバイクのエンジンが掛からない。プラグを替え、電装系のパーツを交換し…それでもエンジンが掛からない。最後にぬかるみの中、数人で何度も押し掛けをしてどうにかエンジンが復活した。原因はまったくわからなかった。本人も10年乗っていて初めてのことだという。
散らばった荷物をまとめ再スタートした、そのときドライバーのセルゲイが汚れた手をボロ布で拭きながらポツリと言った。「きっと、何十年かぶりに日本の若い女性が来たので、それもオートバイでね。ここの日本の神様は帰したく無かったんだよ…」。本当にそんな気がした。振り返って遠ざかる鳥居に手を合わせ、旅の安全を祈願した。
写真 : 旧白裏神社の鳥居(Oさんご提供)