風まかせ旅まかせ Vol.19 ザイールをめぐる連帯感

今年の新年会でゲストとしてお迎えした作家の田中真知さんの講演会「コンゴ河の船旅」を聞いて、懐かしさで胸が一杯になった。
ザイール(現コンゴ民主共和国)を旅するとは、本来のアフリカの姿、原始のアフリカそのものを旅する大変魅力に富んだ旅であり、同時に途方もなく過酷な旅をさす場合が多い。
僕がザイールを訪れたのは、約30年前のこと。熱帯雨林に続く道はとんでもない悪路で、わずか100キロを移動するのに何週間もかかる場合がある。村々に泊まり、やっと来たローリー(トラック)の荷台に揺られ続け、マラリアや種々の熱帯病に悩まされ、当たり前のようにサルやボア(ニシキヘビ)を食べ続ける。電気や水道、冷えたビールや白いシーツとも無縁なアフリカだ。
当時は、ザイール河やその支流には国営オナトラ船が運航していたが、出発も到着も神のみぞ知る。旅程などはないに等しい船旅だった。しかし、運よく(?)、この船に乗ることができたなら、生涯忘れることのない、すばらしい日々を過ごすことになるだろう。
一隻の動力船の周りにコバンザメのように筏船がくっ付き、千人を超す人間が、蠢いている。50軒を越す個人商店には、床屋や雑貨屋、教会もあれば警官もいる。肉屋には毛を剃られたサルの燻製が大量にならび、魚屋の軒先には2メートルもあるようなナマズが飛び跳ねている。食堂では逞しいおばちゃんが、黒く濁った川の水をくみ上げキャッサバを茹で、村人から買ったワニの肉を焼いており、その横はトイレだ。船はそんな人々の生活を乗せ、幅数キロにも及ぶザイール河をゆったりと航行していた。船に乗り込む際に聞いていた、目的地のキサンガニ到着日はとっくに過ぎていたが、そんなことは、もうどうでもよくなっていた。
ザイールを陸路あるいは船旅で抜けた、という旅人に会うと“同志”とでも呼べるような一種の連帯感を覚えることができる。体力のある内に、ぜひとも再び訪れたいと思っている。
写真 : ザイール河の支流、ウバンギ川