ナイロビ ダイアリー no.18 霊峰ケニア山

ナイロビ ダイアリー no.18 霊峰ケニア山

ナイロビ駐在の最終任期となった今年、
ケニア暮らしの記念のようなものを残したく、
アフリカ大陸で2番目に高い山「ケニア山」に挑戦した。
「アフリカ大陸で一番高い山はキリマンジャロだが、
一番困難な山はケニア山である」。
こう例えられるケニア山の魅力を少しでもお伝えできたらと思う。

ケニア山(Mount Kenya)とは

お隣のタンザニア共和国には、かの有名なアフリカ大陸最高峰のキリマンジャロがある。その陰に隠れてしまい、2番目に高いケニア山を訪れる人は多くないが、ケニア山も標高5,199m。ケニア共和国のほぼ中央にそびえる堂々とした高峰だ。
実は、「ケニア山」はケニア共和国の国名の由来でもある。かつて、この山は地元のマサイやキクユの人々に「キリニャガ(Kirinyaga)」と呼ばれていた。「神の住む地」という意味で、神聖な山として崇められてきた。その後、ヨーロッパ人によってこの土地が征服され、地元の言葉である「キリニャガ」を上手く発音できなかった彼らは「ケニア」と呼び、山の名前も「マウンテン・ケニア」とシンプルな呼び方にしてしまった。そして、1963年にイギリスからの独立を果たし、正式にケニア共和国が樹立された際に、「ケニア山」から国名をいただいたというわけだ。
なだらかで雄大なフォルムのキリマンジャロに比べ、天を衝くかのように切り立って尖った山頂、一目見ただけでその格好良さに惚れ惚れしてしまう。聖地として崇められていた場所にふさわしい威容を持ったケニア山。ぜひ、多くの方に訪れていただきたいと願ってやまない。

3つの険しい山頂

ケニア山には第一峰バティアン(5,199m)、第二峰ネリオン(5,189m)、第三峰レナナ(4,985m)と、3つの山頂がある。もちろん、最も高いバティアンを目指したいところだが、第一峰バティアンと第二峰ネリオンは、5,000mエリアでの高度なロッククライミング技術が必要となり、挑戦する事すら困難。一般的には第三峰レナナに登ることでケニア山登頂となる。頂上を目指すには7ルートあるが、挑戦したルートはシリモンルートを登り、第三峰レナナを目指し、ナロモルルートを下るという全部で4泊5日間、テント泊のルートだった。

満点の星空と静寂の中で眠る
満点の星空と静寂の中で眠る

レナナ峰への行程

キリマンジャロ登山の経験もあったので、登る前は「レナナ峰に登頂する」こと以外にさしたる興味を抱いていなかった。しかし、ケニア山の魅力は山頂に至るまでの行程そのものにあった。ゲートをくぐり豊かな森林地帯を歩いていると、バッファローやガゼルの姿がちらほら。小1時間ごとに景色が移り変わり、目まぐるしく変化する様々な植物や花が出迎えてくれる。氷河によって削られた険峻な谷底を流れる無数の小川を超え、アップダウンを繰り返しながら登っていくと、いつしか周囲は荒々しく尖った峰々に囲まれている。岩壁をよじ登るような登攀技術こそ必要ないものの、足が竦むような切り立った崖、手をつきながらそろりそろりと歩いていると、急に眼前には雄大な氷河が姿を現す。夜明け前の暗がりの中、神秘的に青白く輝く氷河の脇を抜けて、レナナ峰へと辿り着いた。

溶けそうなほど緑が深い森
溶けそうなほど緑が深い森

次々と姿を変える神秘的な植物群
次々と姿を変える神秘的な植物群

あまりの美しさに足を止める
あまりの美しさに足を止める

最奥部に聳えるバティアン峰&ネリオン峰
最奥部に聳えるバティアン峰&ネリオン峰

ケニアへの足跡

登頂まで3泊4日と短めの山行だったが、4日間という時間の大自然の景観のなんと濃密なことか。今でも、ナイロビの埃と喧騒の中に居てさえも、ふとした瞬間に、あの偉大な山の懐に抱かれていた時間に思いを馳せることができる。
当初はケニア暮らしの記念に…くらいの気持ちだったが、霊峰ケニア山を自分の体で知ったことで、ケニアという国への想いも深まったような気がしている。小さな一歩だが、自分の足跡を残させてくれたケニア山、滞在中揉まれに揉まれたナイロビの街、泣き笑いあったケニアの友人たち、この国のすべてに感謝する今日この頃だ。

優しくも厳しい山岳ガイドさん
優しくも厳しい山岳ガイドさん

生野