ナイロビの街は日がな一日中、そこかしこで何かしら音楽が鳴っています。…
やかましいな、と思う事もしばしばですが、まあ私も嫌いではないので概ね好意的に受け止めていますが、1つ残念なのは、兎にも角にも、欧米の最新ポップスばかりが流れている事。そして、音源はすべからくMP3データでダウンロードされたものばかり。夜ごと、ナイトクラブで音楽をかけるDJ達も今はパソコンを使ったものばかり。新し物好きのケニアの人達、インターネットの時代には、欧米で流行っている音楽がタイムラグなしで人々の耳に飛び込んできます。
かつては、市内中心部のダウンタウン地区、リバーロードの一角には、レコード屋、カセットテープ屋が軒を連ね、アフリカ音楽ファン達がこぞって音源を求めにやってきていた時代もあったそうですが、今や勝手にダウンロードされたMP3音源を集めた海賊版のCD-Rばかりが売られています。
なかなか、往年のアフリカ音楽に触れられるような機会は少ないんだなあ、と嘆いていると、ある日ケニア人の友人から、今でもナイロビにもレコード屋はあるよ、との情報を聞きつけ、教えられた通りに行ってみました。
ケニヤッタ・マーケットと呼ばれる、まああまり外国人は立ち寄らない、どローカルの広大な市場があるのですが、その奥まったところ、肉屋が並ぶ中を掻き分けて行くと、最も奥まった場所にひっそりと1軒のレコード屋がありました。
ジミーさんというケニア人のオジサンが経営しているのですが、覗いてみると、あるわ、あるわ。往年のキンシャサ発リンガラミュージック、ケニアの古き良きベンガと呼ばれるスタイルの音楽、後は勿論ケニア人が大好きなジャマイカの古いレゲエのレコードがずらり。これは、という掘り出し物はなかなか見つからず、わりと一般的なものばかりでしたが、メイド・イン・アフリカのレコードに巡り合える事が出来、私も嬉しくなってしまいました。
個人的に、隣国エチオピアの60~70年代の宮廷音楽に端を発しているエチオ・ジャズと呼ばれる音楽のレコードを長年探していたのですが、残念なことにここでは見つからず。店主のジミーさん曰く、10数年前から、ヨーロッパ、特にドイツで古いアフリカン・ポップスをかけるDJ文化が発展し、価値のある音源や、特にエチオ・ジャズは軒並み掘りつくされてしまったよ、との事でした。アジスアベバにもレコード屋はあるそうですが、残っているものは、信じられないような値段が付いてしまっているよ、との事。
例えば、アフリカンアート(西アフリカのアンティークなブロンズ像や、タンザニアのティンガティンが絵画など)で本当に価値のあるものは、もはやアフリカ大陸にはなく、殆どがヨーロッパの収集家達の元か、博物館行きだ、なんて話を聞いたことがありますが、まさかレコードなんて庶民的な娯楽物ですらそうなのか…と、悩ましい気持ちになってしまいました。
とはいえ、往年のアフリカのミュージシャンたちがプレイし、その熱が閉じ込められた当時に作られたレコードを眺めていると、何だかそれだけでうっとりしてしまいます。
日本に帰国し、田舎の実家に眠っているレコードプレイヤーを引っ張り出してくる日を心待ちにしている今日この頃です。