マサイ・マラ・サファリ

2003年8月23日出発、弊社のアレンジでアフリカ大陸を周遊された萩原 廣志 様から頂いたレポートです。
念願のマサイ・マラへ
今朝は晴、爽やかに目覚める。今日はいよいよこの旅行のハイライト、マサイ・マラ国立保護区へ行く。ナイロビ・ウィルソン空港。待合室は狭いのですぐに人でいっぱいとなる。マサイ マラ行きの飛行機がやって来た。操縦席と客席の間に何の仕切りも無い小型飛行機。飛行機は離陸し、眼下から街の姿は消えた。原野の上空を飛行し、約45分後に到着。空港には建物も何も無い。サバンナの中に滑走路を敷いて空港にしている。空港に迎えに来ていたのは全てサファリカー。乗客全員がここで降り、サファリカーに分乗して「カバナーズ・キャンプ」、または「リトル・ガバナーズ・キャンプ」へと向かう。
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リトル・ガバナーズ・キャンプへ
我々はリトルの方。サバンナの中を15分程度走り、車を降りる。降車したあたりは木が多い。車を降りたすぐ下はマラ川だ。
登山道のような道を15mほど下ると小船が待っていた。6名の乗客を乗せると、マラ川に差し渡したワイヤーを伝って船が移動する。マラ川の水は、流れ込んだ土によって茶色く濁って、カフェオレの色をしている。対岸の船着場からまた10mほど登って行くと、あちこちに警棒を持ったガードマンが立っている。宿泊客を動物から守る為、警戒しているのだ。全くの自然の中にキャンプ場がある。
マラ川から上がってきて、暫く歩いた所にキャンプ場があり、左手が森、右手が野球場ほどの池。池の向こうは森。キャンプ場はその左手の森と池との間にあり、芝が植えられている。手前左が受け付けカウンター、正面手前がバー。バーと池との間に広場があり、そこがキャンプ場の青空レストラン。レストラン広場の真ん中にサークル状のカウンターがある。
食事時間は、カウンターの中にコックが立ち、調理をする。晴れた日の朝と昼はここで食事する。夕食はバーの後ろに室内のレストランがあり、そこで夜の食事をする。受け付けカウンターより手前に(マラ川寄り)4張りの宿泊者用のテントがある。
テントはモスグリーンで、かなり大きい。長方形の家型テント。宿泊用テントは全部で17張りある。一番奥のテントから後ろはブッシュになっていてそのブッシュの向こうはサバンナとなっている。池はブッシュの奥のあたりで終っている。これでキャンプ場の様子がお分かり頂けただろうか。
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テントの中の様子
我々のテントは、レストラン広場から4張りほど後ろのテントだ。テントの大きさは奥行き8mほど、幅4mほど、高さは一番高いところで2mほど。テント入り口はフライシートが庇のようになっている。そこにテーブルとイスがあり、外の景色を見ながら休憩できるようになっている。
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テント内は手前の部屋がベッドルーム。奥に仕切りがあり、シャワールームで、シャワー、トイレ、洗面所、化粧台の設備が整っている。その部屋の大きさは2×4m。ベッドルームにはシングルベッドが二つ。シングルベッドと言っても、日本で言うセミダブルくらいの大きさ。ベッドの枕元に小さなテーブル。ベッドルームの隅には洋服掛け、荷物用の台、入り口近くに机など、設備は街中のホテルと何ら遜色が無い。
むしろこのような大自然の中にあって、これほどの設備が整えられているとちょっと戸惑ってしまう。しかし、ここで三泊もするのだから不便を感じない方がいいのかもしれない。ザンジバルで同宿したYさんに言わせると、ここのキャンプ場はなかなか予約が取れないとの事だ。大変羨ましがられ、それを聞いて我々も期待で嬉しくなった。この素晴らしいキャンプ場を選んでくれた旅行社の熊澤さんに感謝したい。
ウエルカムドリンクの後、割り当てられたテントへ向かう。テントまでのホンのちょっとの距離でもガードマンが警棒を手に先導してくれる。街中だったら、まるでVIP扱い。テントの出入り口はガッチリしたファスナーで、虫やヘビ・小動物の侵入を防いでいるかのようだ。
ランチに珍客来訪
昼食は広場になっていたガーデンで食事。食事中、ふと池の方を見ると池のサバンナ側にバッファローが一頭、水面から頭だけ出して、池に生えている草を食べている。
「ほほう、食事をしながら動物ウォッチングか。こりゃいい」と言っている所へ今度は象が現れた。
象は池のマラ川側の森の中から現れた。最初は一頭だけ、様子見風に暫らく池のほとりにじっとしていた。その一頭が一声短く鳴くと、次からつぎへと大小の象が続々と現れる。池に入るもの、池の土手で草を食うもの、その行動はさまざま。最終的には全頭が池に入ってしまった。
数えて見ると全部で21頭。生まれてほど無い赤ん坊の象が2頭いる。赤ちゃん象は水面からやっと頭が出るくらい。場所によっては頭も水中に没してしまい、鼻だけ潜望鏡のように水面から突き出して移動する場所もある。
背中に水を掛ける象もいるが、どちらかと言うと草を食べている象の方が多い。象はあの長い鼻を、水面から出ている草に巻きつけ、毟り取っては口に運んでいる。ベリッ、ブチッと毟る音がする。我々は池のすぐ脇のテーブルに座ったので、手前の象との距離はさほど遠くは無い。「いやぁ、このキャンプ場にはこんなオマケもあるのかぁ」と大感激。
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食事が終った頃、マラ川側の土手から赤ちゃん象が池から直接ガーデンレストランに上がってきた。その赤ちゃん象を追う様にして母象が上がって来た。母象の体は巨大で、真っ白な牙も長く立派である。ボーイ達は大慌てでカウンターに並べられたデザートや食物をしまい、テーブルとイスも片付けている。このような事態には慣れているらしく、手際良くアッと言う間に片付いてしまった。
赤ちゃん像は大人の象と違い、チョコチョコとこまめに足を動かし、物珍しげにあっちへ寄り、こっちへ寄りしてテントの間をうろうろしている。そのうしろを母象がゆったりと赤ちゃん象を追う。その間、宿泊客はガードマンに行動を制止され、身動きがとれない。むやみに動くと子連れ象なので、襲われる可能性がある。ここのキャンプ場は過去に二回テントを倒された事があるそうだ。テントの棟とフレームの部分は鉄パイプだし、張り綱は太いロープ。底はコンクリートを打ってあるらしく固く平らである。そのテントを象はいきり立つと簡単に倒してしまうのだろう。
そうこうしている内に午後のサファリ出発時間が過ぎてしまった。他の人も同様である。ヤキモキしながら親子象がキャンプ場から立ち去るのを待つ。多くの人がこの象の写真を撮っている。我々にとって、こう言うハプニングがとても嬉しい。旅行中、予定外の事が起きると何だか得したような気になる。
親子象はテントの後ろ側に回り込み、林の中へと入っていった。これでキャンプ場の「戒厳令」は解除である。急いで自分のテントに戻る。雨具を着込み、帽子を冠り、双眼鏡を持って船着場へと急ぐ。
初めてのサファリ
マラ川を渡り、サファリカーの待つ広場に着いたのは、予定時間に20分遅れ。同乗者のアメリカ人二名は既に車に乗って待っていた。ドライバー兼ガイドの自己紹介があった。ガイドの名前は「キリンガイ」氏。我々が日本人である事を知って名前を言う時、ニヤニヤ笑って自己紹介していた。「キリン・ガイ」だとオスのジラフと言うことになる。風貌はイラクのフセイン大統領にそっくり(この時期は未だアメリカに捕らえられていなかった)ひょっとしたら、ガイド業は世を偲ぶ仮の姿?同乗のアメリカ人女性はアン、男性がトム。
中年男女だがとてもラブラブ。遠慮しながら後ろの座席でイチャついている。後部座席だと車の天井が低く、段差のある場所ではトムが頭をぶつけたりヒジをパイプにぶつけたりする。見かねて我々の中央の座席と夫婦で交替したが、我々の前でイチャイチャするわけにも行かず、つまらなそうだった。以来、二度と座席交替をしようとはしなかった。頭の二回や三回、ヒジの三回や四回ぶつけても後部座席の方がいいのだろう。
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さあ出発!どの様な景色、どんな動物が見られるのか期待で胸がドキドキする。サファリカーが走り始めて最初に出会ったのがインパラ。道を挟んで右に10頭、にも10頭程度の群れ。森とサバンナの境目にいる。
インパラ達は道のすぐ脇にいるのだが、至近距離で車が通りかかっても逃げようとしない。悠然とこちらを見ている。それだけでもう、嬉しくなってしまう。
さらに車は走る。草原の悪路なのでスピードは出せないが、右に左にユサユサと車は傾く。時々えぐれた場所があり、水をたっぷり含んだ泥が60cmほどの深さで溜まっている。そこをゆっくりと嵌り込んでゆっくりと脱出する。「スタックしたらどうしよう」とヒヤヒヤする。脱出すると思わず4人から拍手が湧く。フセインもまんざらでは無い顔をしている。
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途中、鳥がいると停車してガイドが案内してくれる。記憶に残ったのは美しい鳥「ライラック・ブレステッド・ローラー」写真が無いので色の説明が出来ないが、4色ほどの羽毛を身に纏ったムクドリほどの鳥。その他スネーク・イーグル、セレクタリーバードなどいろいろ。ガイドの説明だと、ヘビを捕食する猛禽類が多いようだ。
暫らく走ると見晴らしの利く大草原に出た。大きい景色だ。遥か彼方の地平線はモヤにかすんでいる。まさに「遥か彼方」と言う言葉がピッタリの景色。しかも360度の大草原。彼方にはシマウマの群れ、インパラの群れ、トムソンガゼルの群れ、ヌー、バッファローなどの草食動物が混然となっている。
映画、テレビで見るアフリカの景色が目の前に出現した。思わずウォー!と声を上げたくなった。これぞ夢にまで見た光景。多くの動物達の生き生きとした動き。まさにこれぞアフリカ。
手前から遥か彼方まで、緑の絨毯の上にゴマを散らしたように動物達がいる。
感動で胸が熱くなる。目の前に現れたこの景色を、現実に見なければこの感動は伝わらないだろう。
ひとしきりこの景色を堪能して車はゆっくりと走り出す。車は岩石がゴロゴロしているサバンナの外れ(?)の方に向かって走る。土地が少し小高くなった所で停車。
ちょっと丈の高い草の間にチーターが横たわっていた。その傍らに2頭の赤ん坊チーターがいる。まだ歩き始めて日が経っていないらしく、歩きもヨタヨタとして母チーターにじゃれついている。母チーターは頭だけ上げ、こちらを観察していたが興味を失ったかのように頭を地面の上に下ろす。我々ウォッチャーを気にしていないようだ。母チーターには貫禄らしきものが漂っている。赤ん坊チーターはまるで縫いぐるみのよう。
自然環境の中で、危険と隣り合わせの状況に置かれている動物達は、動物園にいる動物達とはどこかが違う。動物園の動物の様に腹の肉がタルタルしていない。サバンナの動物は引き締まった体で、常に緊張感を保ち続け、草食獣でも肉食獣でも精悍さが漂っている。
その後、サバンナをゆっくりと走りつつリトル・ガバナーズ・キャンプへと戻る。気分は高揚し、興奮がまだ覚めやらない。マラ川を渡り自分たちのテントに戻る。シャワーを浴び、服を着替えて夕食へと向かう。
周囲はもう真っ暗。懐中電灯を手にテントを一歩出るとすぐにガードマンが飛んで来た。カードマンも懐中電灯を手にし、もう一方の手には相変わらず警棒を持っている。レストランまではほんの少しの距離なのだが、必ずガードマンの誘導が必要だ。特に夜ともなれば何時、何処から動物が現れるか分からない。それほどこのキャンプ場は大自然の中に設置されているのである。
食事には我々に何時も同じボーイが来てくれる。昼食の時も同じボーイだった。食後、テントまでガードされて戻る。蚊取り線香を二巻き焚いて寝に就く。テレビもラジオも無い静寂の中、時折カバのブォッ、ブォッと言う声が聞こえる。どうやら池にカバがいるらしい。今日のサバンナを思い出しつつ何時の間にか寝てしまった。
朝もや漂う早朝サファリ
朝早く起き、早朝サファリへと出かける。朝もや漂うサバンナは清々しい。時折、インパラやトムソンガゼルの群れと出会う。この二種類の動物たちはここではごく一般的に見られる。草丈50cmほどの草原で何かが飛びはねた。しかし一瞬の事なのでどんな動物か分からない。その後二回ほど飛び跳ねたのだが、結局何だか分からずじまい。四つん這い状態で飛び跳ねるところを見ると、サーバルキャットではないかと言うことになった。
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この時はガイドが見ていない時に飛んだので、話は推測で終った。ガイドのキリンガイ氏の話によると丈の高い草原には動物は来ないとのことだ。丈が高いと、肉食獣が隠れ易いので、草食獣は近寄らないとのことである。従って草食獣が来ないので、肉食獣も来ないと言うことになる。
丈の低い草原でバッファローの大きな群れに出会う。総数200頭くらいはいるだろうか。ガイドによるとバッファローは非常に危険であるとのこと。最初のうちは全て同じ様に見えていたバッファローだが、見なれて来るうち、それぞれ固体別にどこかが違っているように見え始めた。体高、肉付き、毛色、角の形などそれぞれ何処かが少しづつ違うように感じる。具体的には言い表せないが、人間と同じ様にそれぞれの個性があるのだろう。同じ動物が多数いるとそれが分かって来る。
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バッファローの群れの近くにヌーの大きな群れがいる。こちらも2~300頭はいるだろうか。ヌーにもそれぞれの個性があるのが分かる。
ヌーはよくライオンに襲われるようだが、頭の上にあるあの立派な角で、頭突きを食らわせれば良いのにと思う。単にメスの争奪戦に使うばかりが能ではないはず、命にかかわる重大な事柄、有効利用に気が付いて欲しい。しかし、草食獣が有効な防御方法に気づき、肉食獣に倒される確率が減少したら、自然の絶妙なバランスが崩れてしまう。肉食獣が憎まれて、草食獣が可愛がられ、気の毒がられるのは世の習いだが、観点を変えれば肉食獣が憎まれるのは理不尽なことだ。早朝サファリはポピュラーな草食獣達の朝食風景で終った。
ランチに珍客再訪
昼になり、広場で昼食を食べているとまたもや池に象が現れた。昨日より頭数が少ない。全部で12~13頭くらい。昨日の象と同じ群れかどうかは分からない。
昼の食事が終了して暫らくするとまたもや赤ん坊象がキャンプ場に上がって来た。その後に、巨大な母象が上がって来る。昨日同様、立派な白い牙を持っている。赤ん坊象を追うため、キャンプ場の柵を壊して行く。柵の横木を鼻でチョイと持ち上げると、いとも簡単に横木がはね飛んでしまった。
確か横木は五寸釘で打ち付けてあったはず。象にかかってはそんなもの藁のようにしか感じられないのかも知れない。キャンプ場のボーイ達も慌てた様子はまったくない。騒然とし、緊張が走るのはもっぱら宿泊客だけ。ガードマンも緊張はしているが、職務上の警戒。
赤ん坊象はキャンプ場の木に体をこすりつけたり、池畔の草を毟って食べている。どうも赤ん坊象は、好奇心が旺盛なあまり、キャンプ場に上がって来てしまうだろう。他の象達はキャンプ場には上がって来ない。母象は常に赤ん坊象の周辺を警戒して、傍らから離れようとしない。赤ん坊象はチョコマカとキャンプ場内をウロつき回った挙句、池に滑り込むようにして入って行った。母象もゆったりとした動作で池に入り、池の草を毟り、食べながら池の中を歩き、池から上がってサバンナへと消えて行った。
午後のサファリへ
やはりこの時も午後サファリに大幅に遅れる。同乗のアンとトムも一緒なので慌てることも無くサファリスタートとなる。
午後はアンのリクエストで象の群れを見に行く。いつものように草原の中を走りぬけ、森が近づいた辺りに像の群れはいた。子象から母親象まで年齢が幅広い群れで、ノンビリと森からサバンナに向けて歩いて来る。草をむしり、食べながらの行進である。
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サファリカーは停車し、群れが車の前を通過して行くのを見ていると、群れの中から一際巨大な象が出てきた。牙は真っ白で長く、大変立派である。どうやら群れのリーダーらしい。
巨大象はサファリカーの間近に来ると頭を激しく振り、我々を威嚇している。今にも突進して来て、我々を突き飛ばしそうな激しさがある。キリンガイ氏はギヤをいれると慌てるようにしてその場から遠去かった。
そのままサバンナを走り、大きな岩石が転がっているサバンナの一角にさしかかる。そこにも20頭くらいの象が立っている。キリンガイ氏によるとここにいる象達は立ったまま寝ているのだと言う。
そう言えば、野生の象は立ったまま寝るのかどうかの予備知識が、私には無かった。ここにいる象は動かない。立ったままじっとしている。道路はこの象の群れの中を突っ切るようにして通っている。中でも巨大な象が道路の際に立っているが、その傍らを恐れる風も無く車は通過して行く。寝ている象は大人しい。
そこを走りぬけ暫らくサバンナを走ると、川に突き当たった。キャンプ場に戻る時に渡るあのマラ川の下流なのだ。マラ川の土手に来ると車はエンジンを止め、クロコダイルを探す。体長3mほどのワニが対岸の土手から、川の水の中に滑るようにして入って行った。上流に頭を向け暫らくじっとしてる。背中と尻尾のうろこがやっと分かる程度。よそ見している間に川を横断してこちら側の土手近くに身をひそませたようだ。
シマウマが行く!!
クロコダイルに気を取られているうちに、いつの間にかヌーの群れ、シマウマの群れが土手の上にやって来て、身を寄せ合っている。なんだかそわそわしていて落ち着きがない。シマウマの1頭が土手まで走って行ったかと思うと、サバンナの方へ走り去って行く。暫らくするとそのシマウマはまた群れに戻って来る。ヌーの方も落ち着きが無く、群れ全体でザワザワと土手とサバンナの間を行ったり来たりしている。群れ全体が昂奮しているようだ。
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そう、これはヌーとシマウマの大移動なのだ。新鮮で豊富な草を求めて移動して行く。旅行前、大移動のシーズン直前なので、この川渡りが見られるかどうか保証の限りではないと、旅行社から聞かされていた。運が良ければ見られるかも知れないとも言われていたのだが、その諦めかけていたヌーの川渡りが目の前で行われようとしている。
シマウマは4~5頭が1つのファミリーで一頭のオスに3、4頭のメスがいる。
マサイマラに来て初めて知った事だが、オスの縞の色は黒色、メスの縞は焦げ茶色と言う事だ。その群れの中の1頭が意を決したかの如く、土手を駆け下り茶色に濁った川の水の中へ、音を立てて走り込んだ。
そして、何かに追われているかのように慌て、泳いで川を横断して行く。
川の中央部では首しか出ない。はたして足は川底についているのか分からない。水から出ている頭の高さが上下しないので、足で川底を蹴っているようには見えない。浅瀬にたどり着き、あたふたと対岸へ駆け上る。体の水を切って改めて水際に戻って来た。
そして残った群れを呼ぶかのように「ブヒョン、ブヒョン」と短く仲間に呼びかけている。まるで「早くこっちに来い」「勇気を出して渡って来い」と言っているように聞こえる。残った群れはサバンナと土手とを行ったり来たりして逡巡している。
何度も右往左往している内にシマウマの群れは、サバンナに消えて行ってしまった。それでも川を渡り切ったオスは水辺に立ってこちらを見ている。愛情不足だったのだろうか、メス達はサバンナに行ったきり戻って来ない。一人残されたオスのシマウマの心中たるや・・・?
大興奮!!ヌーの川渡り
今度は300頭ほどで逡巡していたヌーの1頭が勇気を振り絞り、シマウマが渡った場所から川に入り、水しぶきを激しく立て、これも慌てるようにして対岸に駆け上って行く。そして身体の水を切った後、水際に戻って来、シマウマと並んでこちら側をじっと見る。
確かヌーも声を出したような記憶がおぼろげながらある。残った群れは少しの間、逡巡していたが、ある1頭が先ほど渡ったポイントから10mほど下流で川渡りを始めた。すると、他のヌー達も一斉に渡河し始めた。300頭と言えども、壮観である。
まるで市民マラソンのスタートのようにバラバラと川の中に駆け込む。川の中では飛び跳ねるようにして走り込み、飛び上がるようにして対岸に駆け登る。対岸の土手では急斜面に遮られて行き詰まっているヌーもいる。対岸の土手はヌー達の蹄で削られ,えぐられて、新しい土がむき出しになっている。テレビなどで見る光景が今目の前で繰り広げられている。
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程なくして、ヌーの渡河は終了した。頭数が少ないせいか水死するヌーも、ワニに食われたヌーも出ずに、全頭、無事渡河し終えた。
皆、 息を呑むようにして無言でこの光景に見入っていた。渡河が終了すると、興奮冷めやらぬ面持ち 期待していなかった光景を見ることが出来、幸運に恵まれた事に大いなる喜びを感じた。
他のサファリカーの見物人達で他の見物人と目を合わせている。大声を上げて騒いだりする人は誰もいない。まるで聖なる儀式でも見た後のような雰囲気となっている。サファリカーの中で、我々も暫し呆然としていた。それほどこの光景には胸打たれるものがある。
逡巡した挙句、勇気を振り絞って渡河したシマウマとヌー。後の群れを呼ぶかのように水辺に佇むシマウマとヌー。それでもサバンナに走り去ったシマウマのメス達。迷った挙句に大勢で渡河し終えたヌーの群れ。
気持ちの迷いが手に取るように分かり、まるで人の気持ちの揺れを見ているようにさえ思える。三文ドラマを見るより、こちらの方が迫真的。生死を賭けた偽りのないドラマである。
足音を忍ばせるようにしてサファリカーが一台、また一台と去って行く。我々もリトル・ガバナーズ・キャンプへと戻って行く。いつの間に昼間の明るさが薄らいで来ていた。キャンプでは、昨日と同じ様に室内のレストランで食事する。外はどしゃ降りの雨。そろそろ雨季の始まる頃なのであろう。
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真夜中の訪問者?
今朝になって妻から聞いたのだが、「夜中に象らしきものがテントのすぐ脇を歩いて行ったと」言っていた。寝ている頭の側のすぐそばを通ったとのことだ。雨の上がった静かな深夜、頭上を音も無く、あイヤ、ミシリ・ミシリと芝草をふみしだき、何者かが通過して行ったと。ここで声でも上げようものなら、布地一枚、いやフライシートもあるから布地二枚上から強靭なあの長い鼻でひと叩きされたらたまらないと思い、じっとしていたと言う。下手すればテントを倒され、太い足で踏みつけられでもしたら大変だとも言っていた。私の方は熟睡していて、このことを全く知らない。ちょっと残念な気もする。
キリンが見たい!
今朝も早朝サファリへと出かける。サファリカーに乗ると、キリンガイ氏が見たい動物のリクエストはあるかと聞いた。すかさず私がジラフと応えると、キリンガイ氏は「おおそうだ!忘れていた」と言うような顔をして車を発進する。ガイドはキリンガイ、見に行く動物はキリン。事は複雑だ。
途中、遥か彼方にいる動物を双眼鏡で見つけ、妻に「エランドがいる」と教えると、キリンガイ氏に「あれはトピだ」と訂正されてしまった。私は双眼鏡、キリンガイ氏は裸眼。それでもキリンガイ氏にはそれが何なのかが分かってしまう。ちなみにキリンガイ氏は黒ブチの眼鏡をかけているのである。一体、どうなっているの?
目的のジラフは主に木の葉を食べるので、木の生えているあたりを探しまわる。木は川の両岸に帯のような森を形成している。場所によって、疎林であったり密林であったりする。一面草原のサバンナの中で、唯一木が生えている場所は川が流れているところだと言う。「森のあるところ川あり、川あるところ森あり」である。何箇所かの森周辺を探してようやく5頭のジラフを発見。
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ジラフは遠くから見ると首と胴体が別の生き物のように感じられる。首の付け根から上は前後に僅かに揺れている程度の動き。4本の足は、ゆったりと動かしてはいるが、躍動感がある。全く不思議な格好をした動物だ。
車が近づくと歩みは止まる。車が止まるとジラフは歩き出す。まるで5本の木が歩いているかのよう。ジラフは他の動物とは格別違った体形なので見ていても楽しい。車や人が近くにいてもジラフは決して走り出したりせず、ゆったりした歩きは変わらない。何か気品さえ感じる。動物園でジラフを見ても、何の感慨も浮かばないが、大自然の中で見るジラフには感動さえ覚える。
サファリは続く
サファリカーは再び走り出し、サバンナの中をトロトロと進む。草丈50cmほどの草原の一角でブチハイエナを見つける。まだヨチヨチ歩きのハイエナが草むらから出てきた。全部で3頭。しかしまだ草むらの中にもいるのかも知れない。子守りの大人ハイエナが1頭心配して草むらから現れた。このハイエナは母親ではなく、姉ハイエナだと言う事だ。そして子守りのため、ただ1頭ここで留守番ということらしい。
テレビで見るような、汚ならしい姿、イヤらしい顔つきでは無く、むしろ大人のハイエナでさえ可愛らしく感じた。テレビ映像では、真の姿ではなく、誤解を生じやすいような姿を捉えているのではないだろうか。野生のハイエナを見るまではものすごく悪いイメージであったが、ここで持っていたイメージを変えなければならない。
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その後、草食獣の群れを、広大な見通しの利くサバンナで見、狩りに出たライオンの一族を間近で見る。
野生の動物達の体は、動くたびに筋肉が盛り上がり場所によってへこみ筋肉の動きがよく見える。それが動物園の動物達と違ってとても美しい。首から肩にかけて、背中から腰、そして後足の付け根から大腿部の筋肉の動きがよく分かる。動くたびに筋肉がムキムキ、モリモリ、どう表現したら良いのか分からないが、盛り上がりへこむ。それは一流のスポーツ選手のよう。ムダな肉が1片も無い。ギリシャの戦士の彫像を思わせる。特にオスライオンの肩から上腕部、腰、大腿部が顕著である。野生の動物達の姿は、草食・肉食を問わず精悍で美しい。
ピクニック・サファリ
一旦キャンプ場へ帰り、昼近くになって再出発。今日の午後はピクニックサファリである。出発する前、キャンプ場の池にやって来た象は全部で5頭。日に日にやって来る数が少なくなってきている。ちょっと淋しい。しかし初日のように毎日二十数頭でやって来ていたら、池の草は瞬く間に食べ尽くされてしまうだろう。象も同じ場所に留まって草を食べ尽くすより、移動しながら少しずつ広範囲に草を食べた方が良いと言う事を知っているのだろう。これも自然のバランスを保つ為の、1つの方法なのかも知れない。
ピクニックサファリは池が近くにあり、土がむき出しになった地域で昼食を摂ると言うもの。
肉食獣と大型獣を警戒してか、草丈は低く見通しのきく場所である。動物ウォッチングの時は車からは降りられない。今回のピクニックサファリで初めてサバンナの土を踏んだことになる。いま立っている場所と地続きの所にたくさんの野生動物達が草を食み、子育てをし、走りまわっているかと思うと何故か嬉しくなってしまう。気分は子供と同じ。
弁当を食べ、コーヒーを飲み付近を散策する。もちろん草むらには近づかない。危険は何処に潜んでいるか分からない。草食獣の気持ちもかくありなんと思う。食事後、再びサファリカーに乗ってサバンナを走る。昨日のマラ川土手まで行くが、今はシマウマもヌーも来ていない。すぐにサバンナへと引き返す。見通しの利く場所に4台のサファリカーが止まっていた。
そこには母チーターと3頭の子チーターがいた。母チーターは獲物を探しているらしく、草食獣のいる遠くを見ている。しまいにはサファリカーの屋根に登ってまでして獲物を探している。こんなシーンはめったに見られない。大勢のウォッチャーがシャッターチャンスとばかりに、あちこちでシャッターを切っている。
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母チーターは車の屋根から下り、草原に向かって姿勢を低くした。首を前に突き出し、目は遠くを見つめている。後足をかがむようにして腰を低くし、左前足を中空に止めている。スタートダッシュの姿勢だ。しかし、チーターの目線の先の草食獣はあまりにも遠い。さすがのチーターも諦めたらしく、その姿勢を崩して子チーターの元へ戻ってしまった。チーターの狩りの場面を見ることが出来ると思い、固唾を飲んで見守っていたが残念!肩透かしを食ったようだ。そして今日のサファリは終った。
キャンプ場へ戻る際、明日の早朝サファリをキャンセルする。荷物の整理をゆっくりしたいし、連日のサファリで少々疲れを感じた。同乗のアンとトムも同じらしい。サバンナでは高曇りの日々が続き、ついに燃えるような夕陽を見ることが出来なかった。少しばかり心残りである。
さよならアフリカ
朝食後、荷物のパッキングを済ませいよいよここを去る時がやってきた。
快適なキャンプ生活が出来たリトル・ガバナーズ・キャンプに別れを告げ、マラ川を沈んだ気持ちで渡る。うつろな気持ちでサファリカーに乗り込み、飛行場へと向かう。飛行機を待っている間、キリンガイ氏に「サファリは楽しめたか」と聞かれ、「充分に楽しめた。子供の頃からの夢だった」と答える。「じゃあ夢が叶ったんだね」とキリンガイ氏が満足げに言っていた。「また来るよ」と言うと、「待ってるよ」とキリンガイ氏。
本当にもう一度、サバンナの広大な景色を楽しみたいと心より思っている。飛行機は飛び立ち、サファリカーが遥か後方に小さくなって行く。眼下に広大なサバンナが広がり、川の蛇行に沿った森が地図のような景観を呈している。暫らく飛んでいると眼下は陸の海と化しケニヤの大きさを見せつけられる。今夜はナイロビに泊まり、明日はヨハネスブルグ。29日午後には成田に到着する。旅行の度に感じるのだが帰路に向かうのは本当に辛く哀しい。未だ一度も日本に帰ることの喜びを感じた事がない。一体どう言うことなのだろうか。アフリカの大地を再び訪れたいと心に誓い、筆を置く事にする。
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