African Art 21 カメルーンのアートになる帽子

カメルーンのティカール、バムン、バミレケ、グラスランド地域に住む人々は大変魅力的な帽子で身を飾る。最も古い帽子の形は“tall cap(長めの帽子)”である。これはコットンのかぎ針編みであるが、フェルトなどの異素材を部分的に使う場合もある。帽子の両側には玉飾りや房のついた布を縫い付けたりもする。このタイプの帽子はバムンやバミレケの彫刻に表現されているものと同じである。1914年にはこの種の帽子を被っているティカールの族長やバムンの王の姿が確認されている。
帽子は王族だけではなく高位の男も被ることができた。低い身分の男は帽子全体が玉飾りや房で覆われているものを被った。現在バミレケのマーケットでよく見られるのは円錐形で、幾何学模様をかぎ針編みした綿のものである。ヤマアラシの針を表わすような短い房を規則正しく配列した帽子もある。
グラスランドで最も典型的な帽子は“Ntamp”と呼ばれるトップが平らな形のウールのかぎ針編み帽子で、公の場や儀礼の際に特別なガウンとともに着用する。”Ntamp”は輸入の糸に強度を増すためにラフィアの繊維を混ぜて男が作る。

①

①の帽子はパリのアフリカンアートギャラリーで見つけて購入したものであるが、はじめは儀礼用のオブジェかと思い、帽子には見えなかった。木の実でできていて触るとその鋭い棘が痛い。現代アートのオブジェとしても十分通用するだろう。その後、カメルーンのバフサン市のマーケットに行った折、フェティッシュ(呪い)の素材や道具を売っている店で同じタイプのものを見つけ、この木の実がバミレケ族の人達にとって何らかの薬用効果があり、儀礼素材として使われるものと知った。帽子というより何か魂のこもった力のあるオブジェに見えてくる。
②

③

②③は王族や身分の高い人が身に着けたもので、とても細かくタイトに編んである。バムン、バミレケの彫像にもこの種の帽子をかぶった王の像をたくさん見かける。非常に細い糸で作られていてとても美しい出来栄えである。
④

④は比較的に身分の低い人達が被ったもので、現在でもマーケットに行けば見つけることができる。しかし現在はラフィアやコットンではなく太い毛糸で作られることが多い。儀礼の時などダンス衣装と共に着用する。このデザインは現代の若者、特にミュージシャンなどが実際に自分の地毛を編んで髪型にしている。これも帽子というよりアート作品として通用する存在感を持つ。
⑤

⑤はとても美しい色合いとデザインで作られた帽子でハリネズミの針が上側面についている。デザイン、色合い完成度共に素晴らしい一品である。
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⑧

⑥⑦⑧はダンスの時にも被るが日常的にも普段使いで使われている。網の質、形とも美しい。
この他にダンス衣装にのみ使われる鳥の羽根を編んだ直径70cm位の大きな物もある。真っ赤な羽根の帽子は現代美術のオブジェとして十分通用する美しいものである。
写真提供/小川 弘さん

小川 弘さん
1977年、(株)東京かんかん設立。アフリカの美術品を中心に、アフリカ・インド・東南アジアの雑貨、テキスタイルなどを取り扱っている。著書にアフリカ美術の専門書「アフリカのかたち」。公式ウェブサイト http://www.kankan.co.jp/

African Art 20 アシャンティ族の櫛

黒人アフリカ女性の髪型に対する執着は何千年も前から並々ならぬものであった。紀元前のノックの彫像に見られる珍しい髪型もその好い例である。
カメルーンの仮面にも独特な髪型を持つものが数多く存在する。しかしその髪をまとめる櫛に関しては、ガーナのアシャンティ族の間で作られるものだけが特異な発展を遂げていった。当時を調べた文献によると、17世紀前半から後半頃まではアシャンティの人達の使う櫛は非常にシンプルな指の長さ程の2本の歯を持つ櫛で、それで髪を留めていたという。当時の人々はシラミに悩まされていたため、櫛はシラミを掻き出すのにも使われていた。またその頃の女性は人に会った時、敬意を表すため、頭の後ろに付けている櫛を外して、それを見せて右足を前に出して挨拶をするという習慣があったそうだ。18世紀になると櫛の歯は3-4本に増え、編み込んだ髪に一つ、または二つの櫛を留めていた。20世紀に入ると櫛は大きくなり、実際髪を結うためにはヨーロッパの櫛が使われ、伝統的なデザインを施した櫛は、髪結いが終わった後の髪飾りとして使われるようになった。近年は更に大きくなりこれらは壁の飾りとして使われている。

画像では良く見えないが家のような弧の上には亀と子安貝、銃のデザインが施されている。家族が富に恵まれ、長寿で権力を持てる事を願ったものか?
画像では良く見えないが家のような弧の上には亀と子安貝、銃のデザインが施されている。家族が富に恵まれ、長寿で権力を持てる事を願ったものか?

鳥、“賢者の結び目”を表わしている。後ろを振り向く鳥(サンコファ)はアシャンティ族のことわざで「過去の過ちを正せ」という意味があり、将来の事を決める前に過去を振り返れという教訓。
鳥、“賢者の結び目”を表わしている。後ろを振り向く鳥(サンコファ)はアシャンティ族のことわざで「過去の過ちを正せ」という意味があり、将来の事を決める前に過去を振り返れという教訓。

アシャンティの子宝を願う人形、“アクワバ”をイメージさせる櫛。アクワバと同様、子宝を願う気持ちを込めて夫から妻に送られる。
アシャンティの子宝を願う人形、“アクワバ”をイメージさせる櫛。アクワバと同様、子宝を願う気持ちを込めて夫から妻に送られる。

櫛は女性の持ち物で、彫り師に自分が使用するために注文することもあったが、多くの場合、何かの記念日、例えば結婚式や誕生日、成人式、出産などの時、男性から妻や恋人へ、または父から娘へ、息子から母へと特別な出来事の記念として、また伝統的な祭りやキリスト教の祭りの記念として櫛が送られた。それらの櫛には送り主の名前や記念日の日付や場所などが書き込まれることもあった。このようにアシャンティの人達の間では、櫛は単に髪に飾るためのものだけにとどまらず、大切な記念日や愛情の気持ちを伝える大切な記念品、贈答品であり、デザインも多様化してアシャンティのことわざなども盛り込まれるようになり、アフリカ美術の中でも特異な発展をしていった。
ファンティ族の女性の髪型(19世紀)
ファンティ族の女性の髪型(19世紀)

写真提供/小川 弘さん

小川 弘さん
1977年、(株)東京かんかん設立。アフリカの美術品を中心に、アフリカ・インド・東南アジアの雑貨、テキスタイルなどを取り扱っている。著書にアフリカ美術の専門書「アフリカのかたち」。公式ウェブサイト http://www.kankan.co.jp/

African Art 19 ナイロビのリサイクルアニマル

先日久しぶりにナイロビに出かけた。2年ぶりぐらいになるだろうか?少しインターバルを置いて出かけると民芸品などに新しいものが加わっている。またバッグや布製品も今時の新鮮なデザインが市場を賑わしていることがある。
その日はちょうど月曜日だったのでマサイマーケットに立ち寄ってみた。相変わらず木彫品の動物、ガラスビーズ細工のペンダントやイヤリングなどが数多く並べられていた。そのなかで、今までにあまり見掛けなかったゴム製のカラフルなキリンやライオン、サイなどを並べて売っている商人がいた。色鮮やかなとてもきれいな動物である。聞いてみると、使い捨てられたビーチサンダルからのリサイクル商品だそうだ。使い捨てられたサンダルから作られたにしては色が鮮やかである。キリンとライオンが特に美しい。中にはアート性の高いものもある。そこで早速その出所を調べることにした。今はインターネットという便利なものがあり、結構簡単にソースを見つけることができる。しかし、ナイロビでは簡単に行かず、ほとんどあきらめかけていた帰国日にやっと電話で工場を突きとめた。フライトを夕方にして、工場に向かう。

美しく個性豊かな動物たち
美しく個性豊かな動物たち

キリン大:29cm、小:21cm
キリン大:29cm、小:21cm

イボイノシシ:23cm
イボイノシシ:23cm

カバ:24cm
カバ:24cm

ライオン:23cm
ライオン:23cm

あいにくオーナーは不在であったが、ショールームにはたくさんの動物たちが並び、倉庫にはそれ相応のストックもあった。仕事場では多くの人達が山と積まれた使い古しのサンダルを大きな釜で煮たてて汚れを落としていた。落ちない汚れは切りおとして、特殊な接着剤で張り合わせて大きな塊を作る。その塊をナイフで切り出して形を作る。ケニヤの職人は何十年もジャガランダの木材やチーク材、マホガニーなどで動物を彫り続けてきているので柔らかいゴムを切り落として形を作ることはお手のものである。削られた後からきれいなビーチサンダルの張り合わせた層が現れるのはとても新鮮である。これは一つの新しいアートである。
慣れた手つきで動物たちを削る
慣れた手つきで動物たちを削る

捨てられたビーチサンダル
捨てられたビーチサンダル

後日、そのオーナーとメールでやりとりして知ったことであるが、彼はイギリス人でこのリサイクルグッズはフェア―トレードを基本にしていて、仕事に見合った十分な賃金を支払う事を前提にしているそうである。こちらのビジネスを考えるとやや割高に感じられる金額だが、キリン、ライオン、サイ、ゾウなどの美しい色合いと造形に魅せられて、それなりのオーダーを決めた。来春には日本のマーケットで見かけるようになるかもしれない。
写真提供/小川 弘さん

小川 弘さん
1977年、(株)東京かんかん設立。アフリカの美術品を中心に、アフリカ・インド・東南アジアの雑貨、テキスタイルなどを取り扱っている。著書にアフリカ美術の専門書「アフリカのかたち」。公式ウェブサイト http://www.kankan.co.jp/

African Art 18 アフリカのファットウーマン

前回アフリカに行ったのはほんの6か月前だった。もう35年以上もアフリカに出かけているが、最近は古い美術作品などを見つけることが全く期待できなくなった。収穫も少ないので、出かけるのもしばらくインターバルを置いた方がいいのではと感じているのだが、何かに追い立てられるようにアフリカに足が向かってしまう。
西アフリカの多くの国々の政情はとても安定しているとは言えず、情勢は常に変わりやすい。平和そのもので人々はとても気さく、いつでも車で移動できたマリ共和国は既に2年間も国情が安定していない。そんな中でも西アフリカの人々は、少ない可能性を何とか生かそうと一生懸命生きている。やっと少しずつ観光客が訪れるようになったコートジボアールの首都アビジャンのマーケットには品物が増えてきて、東のコンゴ民主共和国やカメルーンの商品も並ぶようになってきた。古いアフリカ美術を見つけ出す可能性が難しくなった最今、私の関心はもっぱら現代の創作作品にある。
今回の面白い発見は、アフリカの太った女と男達を風刺的に表現した人形だ。これは伝統的に作り続けられているコロン人形の延長線上の作品といえる。アフリカのおばさんやおやじの中には極端に太った人が多い。市場で物売りしているおばさんにもビックリするほど体格の良い人がたくさんいる。以前からそれらの人を見るたびにコロンビア人の画家、フェルナンド・ボテロの作品を思い起こしていた。そしてこれは作品になるなといつも感じていた。写真の被写体にも面白いし、造形作品としても面白いのではと思っていた。今回の旅で、そんなイメージに類似する人形を見つけたのである。これこそ今のアフリカの象徴だ。アフリカの日常の風景である。太ったおばさんの背中には幼い赤子が負ぶさっている。今風の派手なシャツは今にもはちきれんばかりだ。

アフリカの太った男と女(左の女性:H54cm、中央の男性H60cm、右の女性:H58cm)
アフリカの太った男と女(左の女性:H54cm、中央の男性H60cm、右の女性:H58cm)

西アフリカでは植民地時代から、その時代の風俗を表わした人形を作ることが盛んであった。帽子をかぶった統治者のフランス人の顔はいつもピンクに塗られて表現される。アフリカ人の兵隊、警察官、カメラマン、フットボールの選手、コック、若い女の子、裸の女、ダンサーなどあらゆる人形が作られ、その時代の風物を表わしていてとても興味深い。人形の意味合いは部族によって違い、たとえば、宗教上の儀礼時の供え物、魔除け、日常を加護するお守りであったりする。時代の風物を表わす造形的な人形は、ある時代を反映するアート作品ともいえるだろう。ファットウーマンは21世紀のアフリカを生き生きと語っている。
西アフリカの人形たち
西アフリカの人形たち

写真提供/小川 弘さん

小川 弘さん
1977年、(株)東京かんかん設立。アフリカの美術品を中心に、アフリカ・インド・東南アジアの雑貨、テキスタイルなどを取り扱っている。著書にアフリカ美術の専門書「アフリカのかたち」。公式ウェブサイト http://www.kankan.co.jp/

African Art 17 ピグミー、ムブティ族の腰巻、タパのデザイン

コンゴ民主共和国の北、ウガンダ国境近くのイトゥリの森に住むピグミー、ムブティが作る樹皮の腰巻に描かれた模様はとても興味深い。通称タパと呼ばれるこの樹皮はクワ科のイチジクの木から剥いだものである。

タパ 76×44cm
タパ 76×44cm

タパ 65×48cm
タパ 65×48cm

ピグミーは何千年も前から中央アフリカ、熱帯雨林の奥深くに暮らしてきた。ピグミーの名は、ギリシャ伝説で小柄な人を意味する「ピュグマイオイ」に由来すると言われている。ムブティはピグミーの典型的なタイプで成人男子の身長は平均140cmと低く、一夫一婦制で成人20~50人とその子供たちで一つの共同体を作って暮らしている。狩猟採集を行いながら移動を繰り返すため、枝を組んで大きな葉を重ねて置いただけの簡素な家に住み、祖先や精霊に対するアニミズム信仰も持っていない。金属の加工も知らず、布を織ることもなく、森の住人として生き続け、このタパだけがその豊かな精神性や美的感覚の表現だった。
小屋の前に立つ腰巻をつけたピグミーの少女
小屋の前に立つ腰巻をつけたピグミーの少女

同じ森に住むもう一つの部族、マンベツ族はかつて大きな王国を繁栄させていたが、腰巻のタパに自分たちで模様を描くことはなく、ムブティにそのデザインを頼んで描かせていた。周辺のマンベツ族や北のスーダンに住むヌバ族はボディーペインティングで良く知られているが、その文様はムブティのデザインに似ている。
タパに描かれるモチーフは幾何学的で一つ一つが星や動物や昆虫、蝶など森で見られるあらゆるものを表わしている。模様に関する決まりごとはなく、タパの樹皮布にのびのびと描き、見事なコンポジションを持つ絵画のようである。一枚のタパを2分割、または4分割し、それぞれ違ったキャンバスに見立てて、全く異なったデザインが描かれているものも多い。これはタパが折って使われることを考慮してのこととも考えられるが絵の構成としては異質である。この視覚的特徴は、彼らの独特なポリフォニー(多声音楽)と関連づけて考えられることがある。ムブティの歌はヨーデルや叫び声の多用が目立ち、自由で即興性に溢れている。これは、ムブティが周辺の農耕民族のように固定した社会構造を持たず、より平等な共同体で暮らしていることの反映とも言われている。タパのデザインもその平等社会を映しだすかのように、中心となるモチーフはなく一つのモチーフが他の部分を支配することは決してない。ムブティのタパは現代美術として評価も高く、素材と表現の簡素さに究極の美が宿っているのかもしれない。
ムブティの住むイトゥリの森
ムブティの住むイトゥリの森

写真提供/小川 弘さん

小川 弘さん
1977年、(株)東京かんかん設立。アフリカの美術品を中心に、アフリカ・インド・東南アジアの雑貨、テキスタイルなどを取り扱っている。著書にアフリカ美術の専門書「アフリカのかたち」。公式ウェブサイト http://www.kankan.co.jp/