2月3日から11日の日程で、緑豊かな雨季のボツワナ、マシャトゥ動物保護区へのツアーを催行した。恒例となりつつあるこのサファリ、今年は現地到着直前にまとまった雨がしっかり降ってくれたおかげで、デビルズ・ソーン(Devil’s Thorn)と呼ばれる花が地面を埋め尽くすという珍しい光景に恵まれた。動物たちのコンディションも非常に良好で、どの種も活動的だったため、実に多くの撮影機会が次から次へとやってきた。ゾウ、ライオン、チーター、ヒョウといったマシャトゥの馴染みの顔ぶれ以外にも、ヤマネコや数多くの野鳥を撮ることができたし、風景に関しても、朝日や星空、花畑など、バリエーション豊かな結果を得るに到り、自然写真撮影ツアーの名に恥じぬ旅となった。やはりマシャトゥは凄い。あれほど自由度の高いサファリができる場所もそうそうないと、回を重ねる毎に実感する次第だ。
■山形豪さんと行く 緑の季節のマシャトゥ 自然写真撮影ツアー 10日間
山形豪さん
2018.5.10発 山形豪さんと行く タンザニア・セレンゲティとンゴロンゴロ写真撮影ツアー 10日間
2018年5月、タンザニアのセレンゲティとンゴロンゴロ・クレーターへのツアーを行った。
5月は現地の雨季にあたる。サファリは一般的に乾季がベストシーズンと言われているが、私は雨季の方が好きだ。理由はいくつかある。まず雨季は動物たちのコンディションがよく、活性が高い。草と水が豊富にある時期は草食獣たちにとってもっとも過ごしやすい時期であり、子育てに勤しむ種も多い。草食獣の子供が多いということは、肉食獣にとっても獲物が多いことを意味する。実際、今回はヒョウがヌーの子供を捕らえる場面に遭遇した。二つ目に、景色が綺麗で空気の透明度も高いため写真を撮る上で非常に都合がよい。様々な花も咲いているので彩りも豊かになる。そして三つ目に雨季はローシーズンと思われているため、セレンゲティのような知名度の高い場所でも比較的人が少なく、ゆったりと過ごすことができるのだ。
一通りの動物をとにかく見たいだけであれば、草丈が短く水場に多くの種が集まる乾季の方が手っ取り早いのは間違いない。しかし、写真に主眼を置くとなると、空気が埃っぽく、ほとんどの草木が枯れているため景色に黄色か茶色が大半で、さらに動物たちがエネルギーを温存するために極力動かないようになる季節というのは決して理想的とは言えない。私にとってのセレンゲティのベストシーズンは間違いなく雨季だ。
今回は実に多くのライオン、そしてヒョウのみならずチーターの狩りも見たし、セレンゲティで見られる草食獣の大半は撮影に成功した。また、ダイナミックな雨雲や大きな夕日など、動物以外の部分でも大自然を大いに堪能することができた。
◆山形豪さんと行く タンザニア・セレンゲティとンゴロンゴロ 写真撮影ツアー 10日間
WILD AFRICA 38 セレンゲティは私の原点
私が本格的なサファリを体験したのは1993年の夏、高校卒業直後に父についてタンザニアに渡ったときのことだった。初めて訪れたセレンゲティ国立公園の想像を絶する広大さと、当たり前のようにゾウやキリンやライオンがいるという「現実」に心を揺さぶられたのを今でも鮮明に思い出すことができる。このときの体験が、自然写真家を志すきっかけとなった。
以来25年に渡ってアフリカの自然を撮り続けてきたわけだが、実は1998年以降セレンゲティには足を踏み入れていなかった。セルフドライブで単独行動をするには、国立公園の入園料や車などにかかる経費が高額になりすぎるというのが主な理由だ。しかし、昨年から道祖神でセレンゲティへの野生動物撮影ツアーをやらせていただくようになった。自分としては、ある意味原点回帰を果たした形だ。
約20年の時を隔てて再訪したセレンゲティは、やはり美しい草原や豊かなサバンナに数多の動物たちが暮らす野生の王国だった。コピーと呼ばれる花崗岩の岩場も、川辺にそびえるアカシアの巨木も昔と変わらずそこにあったし、ライオンやチーターがよく現れる撮影ポイントなども記憶していた通りだった。道路や空港、ロッジなどのインフラは随分と整備されたので、人と車の数は大幅に増加したが、それでもあの場所にはやはり色褪せない魅力がある。
ところで、私がガイドを務める撮影ツアーは、通常のサファリツアーと何が違うのかという質問をよく受ける。セレンゲティ国立公園とンゴロンゴロ・クレーターへのツアーに関しては、まず参加者数を4名に限定しているのが最大の特徴だ。使用するサファリカーは6人乗りなのだが、目一杯乗ってしまうと機材を置いたり大型の望遠レンズを扱うスペースが全然なくなってしまうためだ。また、一般的なサファリとは時間の使い方がまったく違う。動物をただ見て終わりではなく、もし相手が何か面白い行動に出そうだと踏んだり、光の条件が良くなりそうだと判断したら、車のポジションに微調整を加えながら一箇所に徹底的に居座ったりもする。そうすることでよりよい写真を撮れる可能性が増してゆくと考えるからだ。
写真は5月の後半に行ったツアーの際に、セレンゲティ南部のゴル・コピー周辺で撮ったライオンの新婚ペア。15分に一度のペースで交尾を繰り返していたので1時間ほど付き合わせてもらった。
撮影データ:ニコンD850、AF-S Nikkor 80- 400mm f/4.5- 5.6 VR、1/3200秒 f8 ISO500( 画角86mmで撮影)
やまがた ごう 1974年、群馬県生まれ。少年時代を西アフリカのブルキナファソ、トーゴで過ごす。高校卒業後、タンザニアで2年半を過ごし、野生動物や風景の写真を撮り始める。2000年以降は、南部アフリカを主なフィールドとして活躍。サファリツアーの撮影ガイドとしても活動している。写真集「From The Land of Good Hope(風景写真出版)」、著書に「ライオンはとてつもなく不味い(集英社新書ヴィジュアル版)」がある。日本写真家協会(JPS)会員。www.goyamagata.com
WILD AFRICA 37 チーターの狩りを撮る
アフリカの野生動物を撮影する人間にとって、全速力で獲物を追うチーターの写真はものすごく欲しい”トロフィー”の一つだ。かく言う私も、1993年にタンザニアで動物写真を撮り始めて以来25年間ずっと挑戦し続けてきた。そして今年の1月、数年来通い続けているボツワナのマシャトゥ動物保護区で、やっとある程度納得のいくハンティングシーンを撮ることができた。
”ある程度”というのは、時刻が日没後だったためにとても暗く、カメラのISO感度をかなり上げざるをえなかったためだ(感度を上げるに従って写真の画質は低下する)。
チーターの狩りを撮るには様々な条件が一度に満たされねばならない。第一の条件は、当然ながらチーターを発見すること。それも腹を減らしたチーターをだ。空腹かどうかは腹の凹み具合や尾の先を左右にパタパタと動かす仕草などで見分ける。付近にインパラやガゼルといった獲物の存在も不可欠で、チーターがその獲物に気づかれることなく、50メートルくらいの距離まで忍び寄れるだけの地形的条件ないしは植生も必要だ。遠すぎる位置からでは、いくらダッシュをかけても獲物に逃げ切られてしまう公算が高いことをチーターはよく心得ている。
ところが、撮影をする側にとって遮蔽物が多すぎるのは問題で、なるべく開けた場所で狩りをして欲しい。しかもチェイスがこちらに向かってくる形で起きてくれなければアップでは撮れない。となると、手前に獲物、その奥にチーターが見えるポジションで待ち構えるのが一番確実で、車をそのような場所に停められるかどうかが鍵となる。あとはいざ狩りが始まったとき、追われた獲物がこちらに向かって逃げてくれるよう、ひたすら願うのみだ。
1月9日は、ついにこれらの条件がすべて同時に揃った、私にとって記念すべき日となった。チーターがダッシュを開始した直後、危険に気づいたインパラは全力で車のすぐ左を駆け抜け、その後をチーターが猛スピードで追った。写真はそのときのものだ。しかもこの直後、何とインパラが追っ手を振り切ろうと180度に近いターンをし、今度は車の右側をすり抜けていったため、チーターも反転し、最終的には車の右前方でインパラを捕らえた。最高時速100km以上で走るチーターのチェイス一部始終を、それもかなりの近距離から撮影できたのは25年間で初めての経験だった。粘り強く続けていればやがてチャンスは巡ってくる。これだからサファリはやめられないのだ。
撮影データ:ニコンD850、80-400mm f/4.5-5.6 VR、1/1250秒 f5.6 ISO7200
写真・文 山形 豪さん
やまがた ごう 1974年、群馬県生まれ。少年時代を西アフリカのブルキナファソ、トーゴで過ごす。高校卒業後、タンザニアで2年半を過ごし、野生動物や風景の写真を撮り始める。2000年以降は、南部アフリカを主なフィールドとして活躍。サファリツアーの撮影ガイドとしても活動している。写真集「From The Land of Good Hope(風景写真出版)」、著書に「ライオンはとてつもなく不味い(集英社新書ヴィジュアル版)」がある。www.goyamagata.com
WILD AFRICA 36 昼の砂漠でネコ探し
一般的にサファリのベストタイムは早朝と夕方遅くとされている。これは、動物たちの活性がそれらの時間帯に最も高くなることと、写真を撮る上で光が一番綺麗でダイナミックであるというのが理由だ。そのため多くのサファリツアーでは、早朝から10時くらいまでゲームドライブをしたら、一旦宿に戻って食事と昼寝をして、午後4時くらいに再び出発というスタイルをとる。
では、昼間動き回ることにまったく意味がないかと言えばそうとも限らない。例えば南アフリカとボツワナにまたがるカラハリ・トランスフロンティアパークでのサファリでは、陽が最も高い時間帯はリビヤネコを探す絶好のチャンスだったりするのだ。イエネコの原種の一つであるリビヤネコは、カラハリ砂漠に多く生息するが、小柄で警戒心が強い上、非常に目立たない色をしているため地上で動き回っているところを発見するのはとても難しい。ところが、彼らは暑くなるとアカシアの木に登って涼む習性を持っており、タイミングとコツさえ分かっていれば比較的容易に見つけられるのだ。
そのコツとは以下のようなものだ。車を走らせながら、道路際に立っている大きなアカシアの木を丹念に見て回る。葉がまばらなものや枯れているものはダメで、幹が太く葉が濃い影を作っているものだけに注意を払う。すると、主に幹が二つに分かれている股の部分にピンク色の、およそ木には似つかわしくない「異物」が見えることがある。これはリビヤネコの耳が太陽光で透けているためだ。大抵は寝ているのだが、車が近づくと頭を上げてくれることもよくある。
写真のリビヤネコは2017年11月22日の13時過ぎに、ノソブ・キャンプの南ゲートから1km程度のところで撮影した。枝が道路の上に覆いかぶさるように生えているアカシアの木にいたので、かなりアップで撮れたし光も悪くなかった。ほとんどの人は遠くばかりを気にして、目の前の木の上は注視せずに通り過ぎていたらしく、付近に車が止まった形跡はまったくなかった。灯台下暗しというヤツだ。リビヤネコは気温が高くなればなるほど頻繁に木に登るようになる。従ってベストシーズンは夏場の12月から2月くらいまでだ。ある年の2月には1日で12匹のネコを見つけたこともある。ただ、猛烈に暑い時間帯に動き回らねばならないのでそれなりの気合と体力は必要だ。
撮影データ:ニコンB700、1/250秒 f/5.6 ISO180
文・写真 山形 豪さん
やまがた ごう 1974年、群馬県生まれ。少年時代を西アフリカのブルキナファソ、トーゴで過ごす。高校卒業後、タンザニアで2年半を過ごし、野生動物や風景の写真を撮り始める。2000年以降は、南部アフリカを主なフィールドとして活躍。サファリツアーの撮影ガイドとしても活動している。写真集「From The Land of Good Hope(風景写真出版)」、著書に「ライオンはとてつもなく不味い(集英社新書ヴィジュアル版)」がある。www.goyamagata.com