町が静かだ。今までどこの町や集落にも必ずあったBARが無い。あれほど大音量で流れていた音楽が、もうここでは聞こえない。ビクトリア・フォールズを過ぎ、ボツワナ・ナミビアの国境地帯を走っている。国境越えはウソみたいにスムーズ。闇両替のうるさいオヤジたちの姿がない。とにかく静か。人間臭さがなくなった。店を覗くと、チキンが発砲スチロールのトレーに乗せてラッピングしてある。まるでコンビニ弁当みたい。ビールを買うと、ビール瓶のデポジットがない。今まで「空瓶は店に返すもの」だった。ごみ箱に瓶を捨てることにすごい罪悪感。まるで世界が変わってしまったようだ。「なんかアフリカを抜けたみたいだ」と思った。
安物の自転車はかなりガタついていた。走っていて「ペキコキ」と異音がするようになっていたが、とうとう「パキャゴキャゴギ・・ぐしゃっ」一瞬ペダルが重くなり、ハブ・ベアリングが砕けるのを感じた。車輪はグラグラ、もう走れない。よりによって現在位置はカラハリ砂漠に差し掛かったところ。ザンビアまではどこでも自転車屋があったが、ボツワナではもう自転車そのものが走っていない。ここから南の世界では自転車は生活道具ではなく、お金持ちのスポーツ用品とその価値を変えていた。どうすることもできないので、自転車をトボトボと押してマウンに向かう。アフリカを抜けたような気がしたと言っても、ゴールのケープタウンまでの道のりはまだまだ長いのだった。