2011年末、大乾期を迎えるアフリカ中央部の熱帯林を訪れるツアーの添乗へと行ってきました。約1年半ぶりの催行となった同ツアーですが、今回はコンゴ共和国/ヌアバレ・ンドキ国立公園に加え、中央アフリカ共和国/ザンガ・サンガ密林保護区も訪問し、ひたすら森の中で滞在する事で、果てしない自然のエネルギーを体感する旅でした。この地球上で原生林と呼ばれる森の80%以上に、すでに何らかの人手が入っていると言われる現在、人類の手が入っていない、本当の意味での“原始林”を訪ね、剥き出しの野生に出会える旅など、そう多くの場所が残されているわけではありません。「ンドキ=悪霊」の名を冠する、神秘の森への旅路を少しだけ振り返ってみたいと思います。
ヨーロッパ経由でアフリカ中央部に向かった私たちが降り立ったのは、カメルーン南部の大都市ヤウンデ。ここから、4WDランクルに分乗し、ひたすら東へと道を走らせます。途中から、舗装道路が赤土のダートへと変わり、ついには地図にも載っていない森林伐採会社の切り開いた道を走ります。乾期の未舗装路は、もうもうと土煙が舞い起こり、数メートル先の視界も定かでなくなってしまう悪路です。時折、猛スピードで伐採業者のトラックが土煙の中から飛び出してくるので、肝を冷やしましたが、1日半、ほぼ走りっぱなしでようやく、国境リボンゴの町へと辿り着きました。
リボンゴは、国境の役割を果たしているサンガ河に面した、森林伐採業者の為の町です。町外れには、巨大な木材加工工場が建っていて、巨大な木材を背に積んだトラックが日に何度も出発しています。この町が面しているサンガ河の対岸はコンゴ側、既に目指すンドキの森まで、あと僅かです。日本を出発してから既に4日目、長い行程でしたが、後はこのサンガ河をボートで数時間下れば、ンドキの森の入口、ボマサ・キャンプへと辿り着きます。河を下るボートは、巨大な一本の木を繰り抜いて作ったピローグ。見た目はシンプルですが、とっても頑丈です。スーツケースまで積みこんで、いざ出発。
ボマサ・キャンプに到着後、国際NGO、WCS(Wildlife Conservation Society)で、フィールド保全プロジェクトを担当する西原さんご夫妻がお出迎え。いよいよ翌日から入っていくヌアバレ・ンドキ国立公園の簡単なご説明をしていただきました。翌日からは、徒歩での森歩きになるので、この日のうちに、身の回りの簡単な荷物だけに小分けして頂き、大きなスーツケースはこのボマサ・キャンプに預けて頂きます。ボマサ・キャンプはンドキの森の為の、まさしくベースキャンプといったところで、発電機も備えている為、夜間の数時間は電子機器の充電も可能です。ですが、ここも既に森の入口、日が落ちると数メートル先も見えない闇夜が訪れます。敷地内には、結構な頻度でマルミミゾウも訪れますので、ご注意を。
翌朝からは、いよいよ森歩きに出発。本日はモンディカ・キャンプを目指して、約3時間です。森の中は木々の背も高いので、強烈な日差しが差し込んでくる事もなく、涼しく歩きやすい道のりでした。道も大きな高低差はないので、普段歩きなれている方でしたら、問題なく歩けるような道です。ところで、森の中の道ですが、これは勿論歩きやすいように人間が切り開いたもの…ではなく、全て森に住むマルミミゾウ達の通り道なのです。ゾウ道と呼ばれ、彼らが長い月日をかけ造り上げた道です。実は、このゾウ道がンドキの森そのものにとってはとても重要なのです。ある場所で果実や植物を食べたゾウは、ゾウ道を通って森の隅々までその種を運び、別の場所で糞として種を落とし、そこでゾウの糞から新たな生命が誕生する…。種の中には、一度ゾウの体内を通る事によって初めて発芽の条件を満たすものもあるそうで、全ての動・植物を含めて「ンドキの森」という1つの大きな生命体として考えた時に、その完成された自然のシステムには思わず感心せざるを得ませんでした。
モンディカ・キャンプまでの森歩きは、わずか3時間足らずでしたが、とても素晴らしいものでした。一切の人工物が無い、剥き出しの野生。すぐそばに、マルミミゾウや、ニシローランドゴリラ、動物達の息遣いを感じながら、先導してくれるピグミーさん達の案内の元、緊張感を持って歩かなければなりません。怖さと隣り合わせだからでしょうか、森の自然の美しさは、本当に神秘的でした。
モンディカ・キャンプは、ニシローランドゴリラの研究・観察の為に切り開かれたキャンプ地です。宿泊はテントになりますが、滞在する人の為に、トイレや水浴び場など、最低限の施設はきちんと整えられています。なかなか驚かされたのが、ドラム缶を半分にぶった切った上に、レンガを積んで作ったシンプルな窯。バカにしてはいけません。滞在中に、とっても美味しい焼き立てパンを食べる事が出来ました。
このキャンプから、1回に2名ずつゴリラ・トレッキングに出かけます。このあたりに生息するゴリラは大きなグループが2つあり、研究者たちの長年の努力によって「人付け」されています。(餌付けではありませんよ!)人間に慣れているので、我々の姿を見てもすぐに逃げ出してしまうという事はありませんが、それでもゴリラにストレスを与えない為に、厳格なルールが設けられています。(ゴリラを見つけてからの観察時間は1時間、7m以内には近づかない、マスク着用、フラッシュ撮影厳禁など)
また風邪をひいている、又は風邪気味の人もゴリラを見に行く事は出来ません。これは、人間とゴリラは、風邪を共有してしまう為です。我々の風邪がゴリラに伝染ってしまう事があるんですね。皆さん、くれぐれも体調管理にはお気をつけて!
添乗員は、残念ながらキャンプでお留守番だった為に、ゴリラの雄姿を目に焼き付ける事はかないませんでしたが、参加された皆さんは、全員見る事が出来たようです。
ちなみに、この周辺に生息しているゴリラの群れのリーダー:キンゴさんは、ナショナル・ジオグラフィックの表紙も飾った事があるそうです。
他にも、ボマサから駆け付けてくれた西原さんのゴリラ講座や、一緒に森を歩いての植物レクチャーなど盛りだくさんの1日でした。このキャンプに2連泊した後は、森の別の地域にあるべリ・バイへと向かいます。
その2へつづく
生野