3年のスパンで、登山初心者の方が国内で登山経験を積み、キリマンジャロを目指すプロジェクト『道祖神・登山講習会』。
8月の第1陣「マチャメルート」に続き、第二陣にしていよいよ最終回となる「マラングルート」でのキリマンジャロ挑戦が9月に決行されました。同じメンバーでともに楽しみ、苦しい思いをしつつ3年間続けてきたこの講習会も、ついに胸いっぱいの幸福感と一抹の寂しさとともに終わりを迎え、結果から先にお話しすると、参加者8名のうちウフルピーク登頂が7名、ステラポイント登頂が1名、全員が登頂という素晴らしい結果をもって幕を閉じました。
マチャメとマラング、両ルートの最大の違い、それは山中での歩行距離と宿泊形態です。テント泊でアップダウンのあるコースを歩くマチャメに対して、マラングは山小屋泊、歩行距離もマチャメの8割程度。そのため、マチャメは熟練登山者向け、マラングは経験の浅い方向けとされています。だからと言って、マラングでの登山が楽というわけではなく、数十回登っている私でもマラングの方がより厳しく感じます。特にマチャメでは歩かない、微妙なアップダウンをしつつギルマンズポイントからステラポイントまでクレーターの縁を回り込む、標高5,600m付近の行程は本当にハードで、下山後は一番思い出したくない部分です。そして、参加者の皆さんが費やしてきた3年間という決して短くない時間に対して、何らかの結果を引き出すことが求められました。講師の私個人的には、このプレッシャーが今までのどの登山ツアーより大きかったように思います。そんな私を知ってか知らずか、参加者の皆さんは、故障の痛みからくる不安、体力不足だと思い込んでいることからくる不安、初めての高度と低酸素に対する不安など、それぞれ色々な不安を抱えつつも、アフリカ大陸最高峰の大きな山を、全身全霊で楽しんでいたように思います。
■経験に裏打ちされた粘り
今回、3年前は登山初心者だった皆さんと登って気づいた点は2つ。一つは、体力的にハードなこともあっただろう国内の山々での講習を乗り越えてきたからこそ発揮された「粘り」です。ホロンボハットでの延泊のお蔭か、キボハットまでは皆さん体調も良く、血中酸素濃度計の数値から見て高度順応もうまくいっていたようでしたが、空腹・睡眠不足に近い状態で開始したピークアタックはやはり厳しかったらしく、途中で遅れる方が出ました。できるだけ高いところまで上がってもらおうと、チーフガイドと私で遅れた方の前後を挟み、ペースや休憩の数・時間を調整し、本隊を後から追いかけました。通常であればまず追いつけることはなく、最低限の目標を達するため狙いをウフルピークからギルマンズポイントに切り替えて続行するところ、ご本人の意志の強さか、または3年間の経験のなせる業か、ギルマンズポイントで本隊に追いつき、ほぼ同じタイミングでウフルピークに到達できました。これは私自身もはじめてに近い経験でした。
■3年のという時間と経験の重み
もう一つは、下山のスピード。今回初めて気が付きましたが、登山経験の有無は最もよく表れるのは、おそらく下山の際の足の着き方、ペースでしょう。それなりのペースで下って行くには、次の一歩をどこに着いたら良いか一瞬で判断する必要があります。全くの初心者の方は、この判断に時間がかかり、ペースも落ちます。3年前は奥多摩の日ノ出山(902m)からの下りでさえ難儀していた皆さんが、私やガイドのペースにも易々とついて来られる。変な話かもしれませんが、私が一番感動し、まさに「巣立っていく雛鳥を見送る親鳥の心境」を感じたのはこの点でした。目標をもって何かを続ければ、無駄なことなんて何にもないんだな、と。強い想いや憧れからくる『人の強さ』のようなものを感じさせ、登り慣れた山々から私自身も多くのものを学んだ3年間でした。
■初心者だからこその強み
登山経験者の方は、「この程度の山であれば自分には登れるはず」、「標高は高いけど、降雪はなく、技術的には難しくない山」とキリマンジャロをとらえ、ともすれば自分の技術や体力への過信が”驕り”を生みかねません。反面、3年間山歩きを続けてきたとはいえ、”3年前は初心者だった”ことを常に忘れず、毎回初めての登山に臨むような心構えで山に入る講習会参加者の皆さんには、自身の技術・体力への過信など一切なく、真摯な態度で山に臨み、今の自分が持てる全てを出す、という心構えができていたことも、こういった素晴らしい結果を生み出す原動力になったのではないかと思っています。同行した私自身にとっても、キリマンジャロという山を一から見つめ直し、どうやったらより多くの方々を、体力的に非力な方々も含めて頂上まで導くことができるのか、改めて考える良い機会でした。
今は麓から遥々見上げる、信じられないほど大きな山かもしれません。が、自分を信じて努力していけば、いつかは頂に立てる。「経験ないし・・・」「私は無理・・・」そう感じている皆さん、ちょっと本気になって一緒に『アフリカ大陸で一番高い場所』を目指してみませんか?
羽鳥