ボツワナの北端には、ゾウやカバが多いことで知られるチョベ川が流れており、沿岸の一部は国立公園となっている。対岸はナミビアだ。去る11月、このチョベでハウスボートに4泊する機会を得た。ハウスボートとは、その名の通り水に浮かぶ家のようなもので、陸上のロッジに宿泊する代わりに船上で寝泊まりしながらサファリを楽しめるようになっている。
ハウスボート・サファリでは、車ではなく小型モーターボートに乗って動物たちを探しに行く。水鳥も岸辺の哺乳類も、水上から接近するものに対しては警戒心が薄いため、陸上からのときよりも撮影はずっと楽だ。しかも座るポジションが水面にとても近く、自分の目線が動物と同じか、さらに低いのでダイナミックな写真が撮れるし、周囲に木や草などの遮蔽物がないのもありがたい。カバのような水の生き物はもとより、喉の渇きを癒しにやってくる草食獣や、それらを狙うライオンなどの活動も川辺に集中するので、撮影の歩留まりは想像以上だった。
いつも述べていることだが、サファリでは、光が一番綺麗で動物の活性も高い日の出直後と日没直前が一番肝心だ。その時間帯には現場で被写体を目の前にしていたいのだ。これが陸上だと意外に難しい。朝、車に乗り込んで出発し、被写体を見つけるまでにどうしても時間がかかるし、夕方は夕方で国立公園内では、暗くなる前に宿泊施設に戻らなければならないという規則があるからだ。その点チョベのハウスボートは、国立公園となっているエリアの対岸(ナミビア側)に船を係留してくれる。つまり寝泊まりする場所がフィールドの中にあるので時間の無駄がほとんどないのだ。しかも見通しの効く川辺では被写体を見つけるのにもさして苦労しないため、早朝のよい光を最大限活用できるし、夕方も暗くなる直前まで撮影に臨める。
今回利用したのは部屋数5、最大乗客数10という船で、1階デッキが客室、2階がダイニングエリア兼ラウンジ、そして3階がサンデッキという構造になっていた。内部の設備等は一般的なロッジに何ら引けを取らないもので、電気も24時間使えるし、バーはセルフサービスで飲み放題と、快適そのものだった。また、船の係留場所を変える際の移動速度はいたって遅く、揺れもまったくない。デッキで横になって酒を飲みながらのんびりと目の前を通り過ぎてゆくサバンナの景色や動物を眺めるのはオツなものだ。陸上のサファリもいいが、一味違った趣と開放感を味わいたい人にもハウスボートはお勧めだ。
撮影データ:ニコンD500、AF-S Nikkor 80-400mm f/4.5-5.6G
朝、川辺で草を食むケープバッファロー
写真・文 山形 豪さん
やまがた ごう 1974年、群馬県生まれ。少年時代を西アフリカのブルキナファソ、トーゴで過ごす。高校卒業後、タンザニアで2年半を過ごし、野生動物や風景の写真を撮り始める。2000年以降は、南部アフリカを主なフィールドとして活躍。サファリツアーの撮影ガイドとしても活動している。写真集「From The Land of Good Hope(風景写真出版)」、著書に「ライオンはとてつもなく不味い(集英社新書ヴィジュアル版)」がある。www.goyamagata.com