Africa Deep!! 41 砂漠の民に潜む優しさとしたたかさと

エジプトのカイロ郊外で開かれているラクダ市を見に行ったときのこと。
ラクダは気性が荒く、気に食わない人間が近寄ると、すごく臭いゲップを吐きかけてくる、と聞いていたので、最初は用心して遠巻きに眺めていた。ラクダは前足を縛られ、逃げられないようにされている。
売買する人たちは皆ターバンを巻き、いかにも砂漠の民といった風の男だ。市が始まってずいぶんと経つのに、男たちはひそひそと静かに話し合ったり、水煙草を悠然とくゆらせている。そこのジャパニ、チャイでも飲んでいけと誘ってくれる人もいる。
砂漠の民は外の世界からの旅人には優しく物静かだ。しかし、それにしてもいったいいつ取引が始まるのだろうか。と、見物するのも少々飽きてきた。暇なので、ラクダは本当に臭いゲップを吐きつけるのか、棒でつついて試してみようかと考え始めたときだった。
突然、背後から激昂した怒鳴り声が浴びせかけられた。思わず振り返ると、ターバンの男がふたり睨みあいながら、いまにも掴みかからんばかりの勢いで互いにののしりあっている。いったい何事が起きたのだろう。
喧嘩をしているふたりの男は顔を真っ赤にし、拳を振り上げながら唾を飛ばしている。周囲の人たちはしかし、仲裁に入るわけでもなく、さりとて無視するでもなく、成り行きを静かに見守っているだけだ。このふたりが単にラクダの取引をしているのだと気がついたのはそれからしばらくしてからのことである。それだけ売買の仕方は激しかった。ぼくたち和をもって尊しとする東洋の人間ではとても歯が立ちそうにない。
しかし、取引が終了したとたん、ふたりは旧知の親友のような親密さで、互いに肩を抱き寄せ、手をつなぎながら満面の笑みを浮かべている。そして何度も何度も抱擁を繰り返す。さきほどまでの激しさはどこにもない。ふたりの表情のあまりの急激な変化の裏に、ぼくは砂漠の民のしたたかさを見る思いだった。
写真・文  船尾 修さん

船尾修さん
1960年神戸生まれ。写真家。1984年に初めてアフリカを訪れて以来、多様な民族や文化に魅せられ放浪旅行を繰り返し、いつのまにか写真家となる。[地球と人間の関係性]をテーマに作品を発表し続けている。第9回さがみはら写真新人賞受賞。第25回林忠彦賞受賞。第16回さがみはら写真賞受賞。著書に「アフリカ 豊穣と混沌の大陸」「循環と共存の森から~狩猟採集民ムブティ・ピグミーの知恵」「世界のともだち⑭南アフリカ共和国」「カミサマホトケサマ」「フィリピン残留日本人」など多数。元大分県立芸術文化短大非常勤講師。大分県杵築市在住。
公式ウェブサイト http://www.funaoosamu.com/