Africa Deep!! 54 食堂に描かれた壁画 人々の夢と希望がそこにあった

「アフリカの角」に位置するエリトリアは1993年に独立した若い国だ。エチオピアからの分離独立を果たすべく30年にわたって独立戦争が続いた。戦争が終結し、独立した直後に、僕はバックパックを背負って旅したことがある。
当たり前のことだが、国土はとても疲弊していた。官公庁の建物には大量の機銃掃射の跡が生々しく残っており、破壊された戦車が路地にそのまま打ち捨てられていた。駅舎は徹底的な爆撃を受けて吹き飛び、鉄の塊と化した機関車が転がっていた。鉄路はぐにゃりと折れ曲がり、ヤシの木が黒焦げになっていた。
19世紀末からイタリアの植民地支配を受けたため、街並みはかつて訪れたことがあるイタリアの田舎町の雰囲気とよく似ていた。表通りには重厚な建物のカフェがならび、もし戦争が起きていなかったらさぞかし寛げる空間だったと思われる。しかし当時は店の多くはまだ閉められており、街には活気は戻っていなかった。
足の向くまま歩きまわっていると、裏通りに一軒のレストランを見つけた。おそらくイタリア植民地時代の建物だろう、外観はちょっと傷んでいたが、内部は天井が高くて広々としており開放感があった。大衆食堂だが、よく掃除もされて清潔が保たれている。何よりも、壁面いっぱいに絵が描かれているのが気に入った。結局、滞在中は、朝・昼・夜とここで食べることになった。
エリトリアの食事もイタリアの影響を受けている。パスタやマカロニ、トマト味のスープなどが主である。ただ食べ方はイタリアとはちょっと違っていた。トマトベースのミネストローネスープに固いパンをちぎって入れ、すりこぎのような棒ですり潰して食べたりした。こういう店では食べ方がわからなければ、店員や客がよってたかって指導してくれるからありがたい。
壁面いっぱいにペンキで描かれている絵のモチーフは、山や森や川といった自然の中での人々の暮らし。他のアフリカの国々でもこうした壁面画には動物や鳥などが配置された豊穣な自然が描かれていることが多い。このレストランの絵は長かった戦時に生きた人々の一服の清涼剤だったのは想像に難くない。
写真・文  船尾 修さん

船尾修さん
1960年神戸生まれ。写真家。1984年に初めてアフリカを訪れて以来、多様な民族や文化に魅せられ放浪旅行を繰り返し、いつのまにか写真家となる。[地球と人間の関係性]をテーマに作品を発表し続けている。第9回さがみはら写真新人賞受賞。第25回林忠彦賞受賞。第16回さがみはら写真賞受賞。著書に「アフリカ 豊穣と混沌の大陸」「循環と共存の森から~狩猟採集民ムブティ・ピグミーの知恵」「世界のともだち⑭南アフリカ共和国」「カミサマホトケサマ」「フィリピン残留日本人」など多数。元大分県立芸術文化短大非常勤講師。大分県杵築市在住。
公式ウェブサイト http://www.funaoosamu.com/