まず写真を見てほしい。ぱっと見てこの数字を読み取れる人はいないと思う。手前の紙幣は額面が百兆ドルだ。ゼロが14個も並んでいる。百兆ジンバブエドル。では、ここで問題。日本円に換算したらいったいいくらの価値になるのでしょうか?
日本ではいま政府が国内をインフレにしようと躍起になっている。そうしないと給料が上がらないからだ。しかしモノの値段が上がりすぎてしまうと、額面の大きな紙幣をどんどん発行しなくてはいけない経済状態になってしまう。ハイパーインフレだ。そうなると今度は通貨の価値が下落してしまう。経済というのはバランスが大切で、だからこそ政府の手腕も必要となってくるのだ。
ジンバブエの場合は明らかにそのあたりの手綱を誤ったといえるだろう。僕が初めてかの国を訪れたのは1980年代だが、当時ジンバブエは「アフリカ経済の優等生」と呼ばれていた。それが今世紀に入ってから様相が一変した。理由はいろいろあるだろうが、ひとつには法律を改正して白人の資産を合法的に収奪してしまった点にある。この政策で、経済を索引していた大規模農場主などの白人が国外へ逃れてしまった。その結果、経済が立ち行かなくなってしまったのである。
政府はデノミ(通貨切り下げ)の連続によってこの難局を乗り切ろうとしたが、そのたびに旧紙幣は使えなくなるため、だれもジンバブエドルを信用しなくなってしまった。インフレは加速度的にスピードを上げ、2007年には翌日にはモノの値段が2倍になるという嘘のような本当の事態に。
冗談のような百兆ドル紙幣は2009年に発行されたものの、当然そのようないつ紙屑になるかも知れない紙幣など受け取る人は誰もいない。国民はみんな自衛のため米ドルや南アフリカランドを決済に使った。案の定、百兆ドル紙幣は三カ月で発行停止となり、それを最後にジンバブエは自国通貨を刷っていない状況が続いている。ちなみに最初の質問の答えだが、百兆ドルは約2000円に相当する。ただし通貨の価値ではなく、ヤフーのネットオークションでコレクター向けに出まわっている価値であるから念のため。
写真・文 船尾 修さん
船尾修さん 1960年神戸生まれ。写真家。1984年に初めてアフリカを訪れて以来、多様な民族や文化に魅せられ放浪旅行を繰り返し、いつのまにか写真家となる。[地球と人間の関係性]をテーマに作品を発表し続けている。第9回さがみはら写真新人賞受賞。第25回林忠彦賞受賞。第16回さがみはら写真賞受賞。著書に「アフリカ 豊穣と混沌の大陸」「循環と共存の森から~狩猟採集民ムブティ・ピグミーの知恵」「世界のともだち⑭南アフリカ共和国」「カミサマホトケサマ」「フィリピン残留日本人」など多数。元大分県立芸術文化短大非常勤講師。大分県杵築市在住。 公式ウェブサイト http://www.funaoosamu.com/